谷崎潤一郎の「春琴抄」を映画化した2回目の作品。1935年の島津作品以来19年ぶりの再映画化である。この後、衣笠貞之助監督の「お琴と佐助」、新藤兼人監督の「讃歌」、衣笠作品のシナリオを底本とした西河克己監督の「春琴抄」と続く。
さて、衣裳の派手なこととは裏腹に、どうも谷崎文学の世界は一種異様な人物ばかりが目立つ。本作の主人公二人もちょっと我々のような凡人からはあり得ないほど異常な人たちだ。ヒロインの言い出したら聞かないわがままは十分他人の顰蹙を買うのだが、絶対服従の付き人の男の姿勢はほとんどマゾに近い。今の若い人なんかは理解の範疇を超えるのではなかろうか。そういう異常な世界に焦点を当てたのが新藤作品らしいが、これだけはまだ観ていないのである。ATG的なちょっと前衛的なところが自分の肌合いに合わないので敬遠している面もあるが。他観た作品はどれもきれいごとで描いている。本作はまだ嫉妬とかいう要素を取り入れていて、それが他とややちがうのかもしれない。なかなか映画にするのは難しいのかもしれない。