アメリカ・ハリウッドの名匠ウィリアム・ワイラー監督の初期の作品。どうやらこれがこの人のトーキー第1作のようである。IMDBによると1929年9月16日に本国公開されている。日本公開は翌年4月。1929年というのが何ともため息が出る。大恐慌の直前ではないだろうか。調べるとサイレントで作ったが音をいれてトーキーにしたような感じのようである。場所によってはサイレントとして上映されたのかもしれない。
さて、これは1948年にジョン・フォード監督によってカラー化されてリメイクされている。砂漠の真ん中で悪事を働いた男たちが身重の婦人から子供を取り上げる。母親は死んでしまい、赤ん坊を助けるというのが概要だが、フォードはこのワイラー作品の筋をほぼ踏襲しているかとタカをくくっていたが、そうではなかった。フォードは3人の男たちが悪事を働くところはばっさり省略、赤ん坊を助けることが善人に改心していくのだが、このワイラー作品はそうではない。もっと深刻で重たい印象である。まず悪事を働き銀行員を一人射殺する。仲間は当初4人だ。しかし逃げ出す時に一人は街の牧師に射殺される。そして件の赤ん坊の登場だが、その父親はさきほど射殺した銀行員の息子ということが語られる。3人のうち、一人はやはり撃たれて重傷を負っていて、途中でへたばり自殺を遂げる。今一人は水が不足しているということで夜中姿をくらます。砂漠の中なので自殺行為である。そして残された一人が街へ赤ん坊を、クリスマスのミサをやっている教会に持ちこみ倒れ込むところで映画は終わる。彼は毒入りのたまり水を飲んでいるので、それで事切れたろうと思われる。だが、悪人でも一片の良心があるところを示した。一種感動的なラストである。赤ん坊は無事に街まで帰ったのだ。フォード作品はどこか作り話めいているが、こちらはややリアルで深刻な内容なのだ。監督の資質の違いなのかもしれない。
主演のチャールズ・ピックフォードは脇役・性格俳優の面が強いが、若い頃は主役を張っていたとのこと。晩年には同じワイラー作品の「大いなる西部」で頑固な牧場主で強烈な印象を残したが、ここでも悪人と善人の境みたいな役柄をこなしている。上映時間はわずか68分という中篇である。フィルムの状態も古くておぼつかない感じだがこうして鑑賞できるのはありがたいことだと思う。