室生犀星の同名小説の3回目の映画化。1936年の木村荘十二監督作品、1953年の成瀬巳喜男監督作品に次ぐものである。脚本は水木洋子。成瀬版も水木によるシナリオだから、成瀬版のリメイクとも云えるかもしれない。
原作はごく短いもので、昔気質の父親と母親、やくざな兄、それに学生の子供を孕んだ長女と真面目な次女が主な登場人物。それに長女の相手の学生が絡む。何せ禁足とかいう言葉は戦前のそれである。また舞台が東京近郊の川崎の多摩川べり。戦前は東京に出るのに、上京という感じはあったろうが、戦後はどうだろうか。自分のような田舎者には川崎市なんかも東京の一部に思っている。
原作に忠実なのは1936年の木村版でわずか60分の忠篇。戦後に水木洋子は映画化にあたって、新しい登場人物を加えて話を膨らませているのである。ただ原作に従った部分もあって、どうも収まりが悪く感じてしまう。この今井版は更に時代が下って1976年当時に合わせているので、その違和感が拡大してしまっている。出演俳優だが、草刈正雄の息子は石屋からトラックの運転手になっている。この役は丸山定夫や森雅之のやった役で比較される形になって、やや辛いところもある。それでも今井正監督はなんとかまとめている、そういう印象である。