この作品は封切り後、ほぼ封印状態になった作品である。今井監督のフィルモグラフィで戦後の作品群の中で一番不本意な作品ではなかろうか。スタッフは旧・大映京都撮影所の面々だが、彼らと折り合いが悪く、ほぼ無視されたような状態。どうも今井監督は完全に匙を投げた状態だったという。それは本作に出演している児玉清の手記に詳しく書かれている。脚本は水木洋子。かつての黄金コンビで「また逢う日まで」「ひめゆりの塔」「純愛物語」「キクとイサム」等々名作が生まれている。同時期にも成瀬作品の再映画化作品「あにいもうと」なんかもあるのである。それらを思うととても同じ脚本家とは思えない混乱ぶりは観ていて、こちらも当惑してしまうのである。
製作は永田雅一。どうも芥川龍之介原作で京マチ子主演とくれば「羅生門」の夢今一度という思いがあったのかもしれないし。水木洋子+今井正なら最強と考えたかもしれない。しかし、これほど裏目に出たのも珍しいぐらい出来は芳しくない。製作過程での不和は監督がその素材に乗れずに消極的であったからかもしれない。それを宮川一夫以下が見透かしたのだろうか。