(収録内容)
①交響曲第1番「HIROSHIMA」
大谷直人指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
2013年2月25日 東京芸術劇場でのライヴ
②ピアノとためのレクイエム
田部京子(ピアノ)
2013年5月10日 上野学園・石橋メモリアルホール
先に同じ指揮者で演奏が東京交響楽団による録音のCDが発売されている。これが出荷数で累計17万枚を記録して、先日日本経済新聞の文化欄にも取り上げられていた。これは2月に行われた日本フィルの演奏会の模様を映像にしたもので、末尾にピアノのためのレクイエムが付いているのがポイント。
作曲の佐村河内氏については上記のCDが出るまで、全く知らなかった。ただゲームソフトの音楽や映画音楽を手掛けていたというから、その方面では知る人が少なからずいたのだろう。日経の記事にも書かれていたし、この映像のテロップにも書かれていたが、氏は前衛的な現代音楽を嫌い、音楽大学にも行っていない。独学で作曲を修めている。響きは至極保守的でロマン派後期の規模の大きい音楽という感じだ。3管編成でホルンは8本も使っているのが、映像からはわかる。マーラーあたりの編成に近い。
結局、現代音楽とは何かということだ。前衛的で雲をつかむようなトーンクラスターの連続や不協和音の羅列では聴く者の意欲を削ぐことが多い。氏の音楽はその対極にある。かつては現代作曲家も映画音楽を手掛けて大衆に親しみのある音楽を提供してきた。伊福部昭、芥川也寸志、團伊玖磨、黛敏郎等々。しかし、今は分業化が進み、高踏的なものしか書かない人もいるという。この交響曲がコンクールの予選が却下されたというのはどういうことか。審査員の耳は節穴か、それを問われている。
終演後、舞台に上がった氏は杖をつきながらの歩行で痛々しいが、演奏してくれて感謝しているといった風が感じ取れる。演奏会に取り上げられること自体がたいへんなことである。
付録のピアノ曲は東日本大震災関連の曲だという。犠牲者を弔うという意味合いもあるようだ。交響曲とは違いたいへん静謐な音楽だが、保守的な曲想は変らない。
氏は聴覚を失う前に数曲の交響曲があったというが、それらを全て破棄したという。聴覚を失った時点を再出発として新たに書いたのがこの「HIROSHIMA」だ。第1番とあるのは第2番も書くという意志の表明でもあろう。