月という意味の単語は「Moon」以外に「Luna」というのがある。日本人はロマンティックな幻想を持つだろうが、向こうではあまりいい意味合いはないようだ。「lunatic」は狂気のといった意味の英単語だが、この「Luna」から来ている。月から狂気のエキスがあふれ出ていると思われてきた。そう言えば、恐怖ものでの「狼男」は満月の夜に変身するであった。
この作品はそういう恐怖ものではなく、人間の愛について語ったヒューマンものではある。しかし、その愛情表現はいくぶん危ういところにあって、近親相姦の一歩手前までくるというものだ。ヒロインはオペラのスターで離婚歴があり、一人息子を放置してきた女だ。人間関係は相当に歪んでいる。どう愛情表現していいか、わからないのである。
狂おしい感情はまさにlunaticなのである。これらの狂おしい状況は「ラストタンゴ・イン・パリ」や「1900年」、「ラストエンペラー」に通じる。
映画にはふんだんにイタリアオペラの要素がちりばめられてある。オペラの舞台作りの裏側が見られるのはオペラに関心のある人だったら、興味津々である。
なお、ヒロインとその息子がかつてパンを買った農家というのが、「1900年」に登場した建物のように見えたし、ガスリンスタンド兼宿のシーンはヴィスコンティ監督の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」に似ているように思えた。