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暖流(大映東京1957年)

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 岸田国士の同盟小説の再映画化作品。戦前の吉村公三郎監督作品の方が有名だが、今は完全な状態で残っていないのが残念である。オリジナルは3時間近くの大作だったが、こちらのリメイク版は94分にまとめている。増村監督はやはり俳優にかなり早い台詞廻しを要求、テンポも吉村作品よりもかなり早い。設定もかなり変更が施されている。吉村版では主人公には両親がいたが、ここでは天涯孤独の身になっている。当然、キャラクターもかなりドライで現代風である。
 
 吉村版では高峰三枝子の志摩啓子にあこがれるか、水戸光子の石渡ぎんを好むかで、世の男性を二分したらしいが、こちらの同じ野添ひとみと左幸子が扮しても、あまりあこがれを感じない。自分ではどちらも願い下げのキャラクターに変貌してしまっている。「二号でも、めかけでもいいから愛して」と駅の改札口で叫ぶぎんに至っては、こんな積極的な女性は今でも珍しいのではないか。多分に増村監督が留学したイタリアの影響を受けているように思える。これはこれで面白い映画ではあると思う。

ヴェルディ:歌劇「トロヴァトーレ」(ベルリン国立歌劇場)

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『トロヴァトーレ』全曲 シュテルツェル演出、バレンボイム&ベルリン国立歌劇場、ネトレプコ、ドミンゴ、リベロ、他(2013 ステレオ)
【収録情報】
● ヴェルディ:歌劇『トロヴァトーレ』全曲

 アンナ・ネトレプコ(レオノーラ)
 プラシド・ドミンゴ(ルーナ伯爵)
 ガストン・リベロ(マンリーコ)
 マリナ・プルデンスカヤ(アズチェーナ)
 アドリアン・セムペトレーン(フェルランド)
 アンナ・ラプコウスカヤ(イネス)
 フローリアン・ホフマン(ルイス)
 ベルリン国立歌劇場合唱団
 シュターツカペレ・ベルリン
 ダニエル・バレンボイム(指揮)

 演出:フィリップ・シュテルツェル
 装置:コンラッド・モーリッツ・ラインハルト
 振付:マラ・クロチュカ
 衣装:ウルスラ・クドルナ
 照明:オラフ・フレーゼ

 収録時期:2013年12月
 収録場所:ベルリン、シラー劇場(ライヴ)
 
 今、ウンター・デン・リンデン街にあるベルリン国立歌劇場は大改修中で、公演は主にベルリン・ドイツ・オペラの本拠の近所のシラー劇場で行われているようだ。これは2013年12月の公演映像だが、今もここでやっているらしい。
 
 さて、このシラー劇場はかなり小さなもので、見るとその狭さを逆手にとって、創意工夫が大いに発揮された舞台であった。そして、ややサイケデリックな化粧でアズチェーナなどは登場する。また、時代も中世ではなく、18世紀か19世紀のような時代設定だったが、あまり原作から逸脱したような印象はなかった。ドミンゴがデビュー当初に立ち戻ってバリトンの役をこなしているが、限りなくテナーに近いものでやや軽く感じられた。またマンリーコの処刑も確か火刑だったはずが、斬首になっているのも少し驚いた。
 
 

伊豆の踊子(西河克己・ホリ企画制作1974年)

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伊豆の踊子 1974.jpg
 
 川端康成の同名小説の5度目の映画化作品。その度に、女優の登竜門とも言われた素材だった。田中絹代(1933)、美空ひばり(1954)、吉永小百合(1963)、内藤洋子(1966)それにこの山口百恵(1974)である。監督の西河克己は吉永小百合でも撮っているので、二度目のメガホンである。
 
 西河監督は、新たに劇団民藝の若杉光夫に脚本を任せているが、基本は旧作の日活版を底本にしているように見える。吉永版では大学教授(宇野重吉)の回想形式をとっているが、ここではその教授は登場しないが、同じ宇野重吉が「私」という立場で語る。その「私」とは三浦友和扮する川島のことである。
 
 本作は山口百恵の主演第一作ではあるが、実際は素人同然なので周囲の助演者に助けられているという感じである。その意味では一座の頭である一の宮あつ子や中山仁らが大いに映画では貢献した形になっている。そして弱者への愛情にも似た視線は旧作同様、西河監督の持ち味なのだろう。どちらかという地味ではあるが、時代考証はしっかりとした印象の作品ではある。オイチニの薬屋(これは千家和也が特別出演で扮している)の服装やカフェで流れる流行歌の音声など大正時代の雰囲気が濃厚であった。
 
 なお、東宝系で公開されているが、使用スタジオは日活のスタジオであったという。脇役を見ると全て日活で稼働していた俳優であり、スタッフも日活のそれだった。隣ではロマン・ポルノが撮られていたという状況なのだろう。

ビゼー:カンタータ「クロヴィスとクロティルド」

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【収録情報】
ビゼー:
・カンタータ『クロヴィスとクロティルド』
・テ・デウム

 カタリーナ・ヨヴァノヴィチ(ソプラノ)
 フィリップ・ドー(テノール)
 マーク・シュネイブル(バス)
 パ・ド・カレー合唱団
 リール国立管弦楽団
 ジャン=クロード・カザドシュ(指揮)
Clovis Et Clotilde, Rome: Casadesus / Lille National.o, Caballe(S)
 
 どうも毒を食らわば、皿までもといった風が自分でもあるらしく、同曲異演のものを集中して求める傾向があるようだ。
 
 今回はビゼーのオラトリオ『クロヴィスとクロティルド』がそれだ。偶然にもジャン=クロード・カサドシュ指揮のリール国立管弦楽団による新旧盤を見つけて、ほぼ同時に入手した。資料によると長らくスコアが行方不明となっていて、1988年になって再発見されて演奏が可能になったとのことである。合唱はなく3人のソリストによって展開されるが、メロディアスでオペラの重唱を思わせるような感じである。彼がオペラに才能を開花させたのがわかるような内容だった。旧盤はモンセラート・カバリエが参加しているのが魅力だったので、決め手となった。
 
 新盤は珍しい「テ・デウム」がフィルアップ。これもオペラみたいな作品。旧盤は組曲「ローマ」が同梱。ジャケットには交響曲「ローマ」と記されているが、一般には組曲と表記されることが多いものである。
 

ミクロス・ローザ:管弦楽曲集Vol.1

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ミクロス・ローザ:
・3つのハンガリーの風景Op.14
・ハンガリーのセレナーデOp.25
・シンフォニー・コンサートのための序曲Op.26a
・トリパルティータOp.33
ラモン・ガンバ指揮 BBCフィルハーモニー管弦楽団
 
 ミクロス・ローザはハリウッド映画の多くに音楽を提供したハンガリーの作曲家だが、映画音楽だけでなく演奏会のための作品も多く発表している。一番有名なのは「主題と変奏、フィナーレ」だろう。1943年にバーンスタインのNYPの衝撃のデビューの折にプログラムに入っていた作品だからだ。その当時の録音もあって、ラジオのアナウンスでは映画「ジャングル・ブック」などの音楽を書いた人という紹介なされている。既に映画音楽では有名な存在だったことが知れる。後年、「ベン・ハー」などの大作も担当している。
 
 これらの映画音楽もよく聴くとどこか欧州中央の音楽とは異なるエスニック的な要素を多分に含んでいる。それは彼の出身のハンガリーに由来するものだろう。ここでもそうした民族的な香りがいっぱいの作品ばかりだ。こういう土っぽい音楽は自分も好むところである。ハンガリー的とはすなわちアジア的な要素が満載なので、日本人にも親しみやすいのではなかろうか。

ミクロス・ローザ管弦楽曲集Vol.2&Vol.3

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1. ハンガリー農民の歌による変奏曲 Op.4   ジェニファー・パイク(Vn)
2. ぶどう酒商人の娘 Op.23a
3. ハンガリー風夜想曲 Op.28
4. チェロ協奏曲 Op.32                ポール・ワトキンス(Vc)
ラモン・ガンバ指揮 BBCフィルハーモニー管弦楽団
 
 ガンバによるミクロス・ローザの管弦楽を使った曲集のVol.2のアルバム。今回もハンガリーの土俗的な雰囲気満載の作品集。これも初めて知る作品ばかりで、興味が尽きない。
1.主題、変奏と終曲 Op.13
2.弦楽オーケストラのための協奏曲 Op.17
3.ヴァイオリン協奏曲 Op.24              ジェニファー・パイク(Vn)
ラモン・ガンバ指揮 BBCフィルハーモニー管弦楽団
 
 Vol.3はそれでも2曲目以外は、聴いた覚えの作品。最初の曲はバーンスタインがNYP初登場で振ったものとして有名。最後のヴァイオリン協奏曲はヤッシャ・ハイフェッツの演奏で有名で、実際RCAからも録音が出ている。
主題、変奏とフィナーレは荒々しい曲調の部分があったり、やさしい部分もあったりで変化に富んでいる。バーンスタインはブルーノ・ワルターの代役だったが、ワルターは割とこの曲を演奏会で振っていて、得意としていたようである。ワルターの指揮ぶりも聴いてみたい気はするが、今のところ録音の存在は確認されていない。
 

ワーグナー:楽劇「ニュールンベルクのマイスタージンガー」(ザルツブルク)

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ミヒャエル・フォレ(Br ザックス)
ロベルト・サッカ(T ヴァルター)
アンナ・ガブラー(S エーファ)
ペーター・ゾン(T ダーフィト)
ゲオルク・ツェッペンフェルト(Bs ポーグナー)
モニカ・ボヒネチ(Ms マグダレーネ)
マルクス・ウェルバ(Br ベックメッサー)
トーマス・エーベンシュタイン(T フォーゲルゲザング)
グイド・イェンツェンス(Bs ナハティガル)
オリヴァー・ツヴァルク(Bs-Br コートナー)
ベネディクト・コーベル(T ツォルン)
フランツ・ズッパー(T アイスリンガー)
トルステン・シャルンケ(T モーザー)
カール・フムル(Bs オルテル)
ディルク・アレシュス(Bs シュヴァルツ)
ロマン・アスタコフ(Bs フォルツ)
トビアス・ケーラー(Bs 夜番)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ダニエレ・ガッティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
演出:ステファン・ヘアハイム  装置:ハイケ・シェーレ  衣装:ゲジーネ・フォルム 照明:オラフ・フレーゼ

収録時期:2013年8月
収録場所:ザルツブルク音楽祭(ライヴ)
 これは輸入盤ながら、日本語字幕がついているので、たいへんありがたいソフトである。ガッティも中堅どころになったが、最近はイタリアものよりもこうしたドイツ系のオペラで登場するのが多くなったように感じる。
 
 舞台は中世のドイツよりはやや時代が下った時代になってはいるが、それでも奇抜な現代化されてない分だけみやすい。しかし、オーケストラだけの前奏曲や間奏曲の時に、舞台上で所作させるのは、バイロイトからの影響だろうか。好みとしては幕を閉めて、音楽でこれから始まる舞台への想像をかきたてたいと思うのだが、どうだろうか。何か余計なお節介に感じてしまう。今回のザックスはバリトンのようで、他で聴くバス歌手ではないので、やや軽い印象を持つ。
 
 第一幕への前奏曲は在京の大学ではよく入学式で演奏される。何故かはわからない。明るいハ長調の音楽だから晴れやかな感じの音楽だからかもしれない。大学時代毎年演奏していい加減もういいと思ったこともある音楽でもある。また社会人になって、二期会公演で全曲に接した演目でもある。その時は本来の歌手が病気で倒れ、練習代役を務めていた若い歌手がザックス役でデビューした舞台に立ち合ったという思い出付だった。聴く度に過去の思い出がよみがえることが多い演目でもあった。

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」(MET)

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イルダール・アブドラザコフ(イーゴリ公)
オクサナ・ディーカ(ヤロスラーヴナ)
アニータ・ラチヴェリシュヴィリ(コンチャーコヴナ)
ステファン・コツァン(コンチャーク)
セルゲイ・セミシュクール(ヴラヂーミル)
ミハイル・ペトレンコ(ガーリツキィ公)
演出: ディミトリ・チェルニアコフ
ジャナンドレア・ノセダ指揮 メトロポリタン歌劇場管弦楽団と合唱団

【収録】
2014年3月1日, メトロポリタン歌劇場でのライヴ
 
 ボロディンは歌劇「イーゴリ公」を未完のまま、亡くなってしまっているので、現在はリムスキー=コルサコフとグラズノフが編集、補完したものが、上演される。しかし、初演時は主にグラズノフが補った部分は全てカットされて上演されたので、憤慨して席を立ったという話も残っている。
 
 さて、手許にはイギリスのコヴェントガーデン王立歌劇場とサンクト・ペテルブルク・マリンスキー劇場の映像があるが、この度METの公演が出るということで期待した。指揮はイタリアの俊英ジャナンドレア・ノセダがあたるというから、尚更期待は高まった。
 
 いざ、かけてみると様子が違う。まず序曲はカットでいきなり幕が上がって、主人公の出陣のプロローグに始まり、本題も3幕しかない。これは初演当時の姿に近い形式のようである。といってそのままではなく、最近になって多少手が加えられたもののようだ。少し筋が見えにくくなってしまっており、大好きな序曲がなかったのは、大いに落胆した。実は序曲はボロディンがピアノで弾いていたのを記憶して、グラズノフが構成したものだ。10分ほどだが、開幕前にワクワクさせる音楽だった。まあしかし、こういうのもありということで、受け入れることとした。

クレンペラー:ヴェーゼンドック歌曲&交響曲第2番「復活」

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マーラー:交響曲第2番『復活』、ワーグナー:ヴェーゼンドンク歌曲集 クレンペラー&フィルハーモニア管、シュヴァルツコップ、ルートヴィヒ、他(2HQCD限定盤)
【収録情報】
①ワーグナー:ヴェーゼンドンクの五つの詩      クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ)
②マーラー:交響曲第2番ハ短調『復活』   
  エリーザベト・シュヴァルツコップ(ソプラノ)、 ヒルデ・レッスル=マイダン(アルト)
  オットー・クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団・合唱団
 
 いずれも1961年から62年にかけて収録されたもの。購入して既にかなり時間が経過していて、実際所持しているものとデザインが異なるが、収録内容は変わらない。そして、時折無性に聴きたくなる演奏である。どっしり構えていて、安定感の演奏で安心する。


 

女体(大映東京1969年)

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女体
 
 浅丘ルリ子が日活以外の作品に珍しく出演したもの。大映作品にはこれが初登場だそうだ。多分、ダイニチという配給で日活と提携していたので実現した企画なのであろう。増村監督は彼女のためにシナリオを用意して撮影に臨んだとある。
 
 浅丘扮する浜ミチというヒロインはそれまでの日本映画に登場した女性にはないタイプで、極めて攻撃的な女性である。自分のためには周囲のことなど一切目に入らない様子で、そのために不幸になろうがお構いなしといった風情。これまた、イタリア映画に見られるようなキャラクターである。冒頭から、凶暴な踊りともつかぬ動作をして、観客の度胆を抜く。風俗はいかにも1970年前後の雰囲気で、高度成長の歪みを反映しているようだ。永田大映の末期の作品の一つ。

やくざ絶唱(大映東京1970年)

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やくざ絶唱
 増村保造監督が「兵隊やくざ」以来、久々に勝新太郎と組んだ作品。父親の違う妹を溺愛するやくざの組員の男の悲劇を描く。当の妹はそんな兄を鬱陶しく思い、破滅的になりかけるが、ぎりぎりで救われていく。
 
 やくざ映画ではあるが、東映のそれとは全く異なり、異常な性格の人間の破滅を描くところは如何にも増村監督らしい。どうやら前年の「女体」と同じようなテイストのように感じる。兄の妹を見る目は近親相姦的であり、近づく男は容赦なく痛めつけることを信条にしている。最後に妹と結婚しようとする青年にやっと託そうとした時は死地に向かう途中である。やっと、普通の人間らしい感情になった時、既に死を覚悟している風であった。
 
 その昔、歌舞伎町にあった歌舞伎町松竹という映画館で近日上映ということでポスターが貼ってあったので、その存在を知った。もう30年も前のこと。いろいろと古い作品は観ていたが、この映画は当時あまり関心が向かなかった。リバイバル後、10年経過していなかったのと、やくざ映画に対する先入観があったからだった。今、増村監督を見直す時に、これは外せないと思うようになった。製作当時、大映の屋台は傾きかけていた。ライバルの市川雷蔵は既になく、芝居を離れて勝新太郎も何かヤケッパチになっているような風に見えてしまった。そんな複雑な思いも感じられる作品だが、ラストのテンポはさすがにいい。尚、相手のやくざのボスは橋本力という俳優だが、彼は大魔神とのかかわりあいのある人で、大魔神の眼はこの人のものだったという。

プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」(ローマ国立歌劇場:EMI)

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【収録情報】
・プッチーニ:『トゥーランドット』全曲
 ビルギット・ニルソン(S:トゥーランドット)
 フランコ・コレッリ(T:カラフ)
 レナータ・スコット(S:リュウ)
 アンジェロ・メルクリアーリ(T:皇帝)
 ボナルド・ジャイオッティ(Bs:ティムール)
 グイド・マッツィーニ(Bs:ピン)
 フランコ・リッチャルディ(T:パン)
 ピエロ・デ・パルマ(T:ポン、ペルシャの王子)
 ジュゼッペ・モレーシ(Bs:役人)
 イェーダ・ヴァルトリアーニ(S:第1の声)
 イーダ・ファリーナ(S:第2の声)
 ローマ国立歌劇場管弦楽団&合唱団
 フランチェスコ・モリナーリ=プラデッリ(指揮)
 録音時期:1965年
 録音場所:ローマ国立歌劇場
 録音方式:ステレオ(セッション)
 
 この演目も当初は映像ソフトのみに限定しようと思っていたが、やはり往年の演奏に興味を持ってCDとしてはカラヤン盤に続く2つ目のものとなった。やはり、タイトルロールをワグネリアンのドラマティック・ソプラノのビルギット・ニルソンがやっているのが注目点だ。ただし、彼女にとってこのオペラは2度目の録音である。やはり、ローマのアンサンブルで、指揮がエーリヒ・ラインスドルフだったRCA盤がある。
 
 さて、イタリア・オペラでワーグナーを歌うドロマティック・ソプラノを使ったことは、たいしたものだという評価をどこかで読んだことがある。イタリア・オペラに新しい風を吹き込んだということだろう。新境地を開いたものの、未完成のままでこの世を去ったプッチーニは無念だったろう。ただ、リューが自決した直後から、何かとってつけたような大団円は納得しがたいものがある。プッチーニ本人もどう始末をつけるかかなり悩んだのではなかろうか。初演の時にトスカニーニはプッチーニが完成したところまでだけを初日に演奏して、「作曲者はここで筆を置きました」と聴衆に向かって述べたそうだが、それも一見識のように思う。補作したアルファーノには申し訳ないが、やはり格段の差がある。モーツァルトのレクイエムと同じような評価だ。トスカニーニは補作部分が気に入らず、ばっさりカットしてしまったという。それが慣習になってしまい、よく芝居の展開もわからないようなことになっているらしい。ここではその補充部分がやけに短いように感じる。アルファーノ版の完全版蘇演も計画されていると聞くし、ルチアーノ・ベリオのユニークな版も存在する。

ブーレーズによるマーラー:交響曲第6番

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【収録情報】
・マーラー:交響曲第6番イ短調『悲劇的』(エルヴィン・ラッツによる改訂版)
ピエール・ブーレーズ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1994年5月
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)
 これがDGにブーレーズがマーラーのチクルスを録音した最初のものだそうである。CBS時代は割とマイナーな「嘆きの歌」などしかなかったが、DGに移ってから本格的にマーラーに取り組んだ観があった。当初は冷徹すぎるということでパスしていたが、少し気になりだして、ベルリン国立との第8番を聴いて、何点か聴いてみたくなった。
 
 さて、この演奏はバーンスタインあたりものとは、180度違うようだ。情緒的ものは徹底して排除したような感じ。精緻な演奏を聴かせてくれるが、何か物足らなさを感じてします。一般の評者の中にはロボットが演奏するみたいという表現をしている方がいたようだが、そんな表現されても仕方がないかなと思った。スコアを緻密に演奏しても、冷徹が過ぎるとつまらなくなる。フィナーレの3度のハンマーも割と淡々とやっているからちょっと空振りをしたような気分。また、最後のトロンボーンの四重奏もあっさりとしていたし、最後のトゥッティの強奏もあまり驚きがなく、こちらも気が抜けてしまった。

稲妻草紙(稲垣浩・松竹京都1951年)

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細雪(阿部豊・新東宝1950年)

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 谷崎潤一郎の同名小説の映画化。この小説は3度映画化されているが、本作はその最初の映画化である。谷崎が戦時中も書きついできた作品の連載が終わった直後の映画化で、原作の余韻もまだある頃の映像化でもある。
 
 さて、原作も読んだが、専ら高峰秀子扮する四女の妙子が話の中心になっていて、原作とはずいぶん印象が違って見える。原作では次女の幸子が中心だったように思うが、かなり引っ込んだ印象だ。また長女の夫は殆ど出番がないという感じだ。1983年の市川崑監督版はもう少し姉妹間の葛藤があったような気がする。長女の夫も入り婿の卑屈さがよく出ていた。ところが、この版は話が通り一遍の印象が濃かった。

秋日和(松竹大船1960年)

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 何度となく観た作品だが、出演した司葉子らのトークショーが上映前にあった上映会で改めてスクリーンで鑑賞できた。当時、司は25歳で青春の真っただ中で反省もずいぶん多いと語っていた。緊張で撮影時に卒倒したというエピソードも披露された。
 
 さて、内容は「晩春」のヴァリエーション。その時、娘役だった原節子が親世代になり、従来父と娘の話が母と娘の話になったところが少し変化のあるところ。ただ、ここでは核家族化の進行や老後問題などの深刻化しつつある事項がそれとなく描かれている。大方はヒロインたちの亡くなった夫の悪友たちのユーモラスなやりとりに目を奪われがちだが、今観ると深刻な問題の提示であることがよくわかる。
 
 家族と雖もやがて別れが来てバラバラになってゆくというのは晩年の小津監督のテーマでもあった。最後、一人アパートで布団の上に座って寂しそうにする母親の姿がこの映画の全てであろう。

歌劇『トゥーランドット』全曲 ボルク、デル・モナコ、テバルディ、他、エレーデ&聖チェチーリアo

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歌劇『トゥーランドット』全曲 ボルク、デル・モナコ、テバルディ、他、エレーデ&聖チェチーリアo(2CD)
トゥーランドット:インゲ・ボルク(S)
リュー:レナータ・テバルディ(S)
カラフ:マリオ・デル・モナコ(T)
ティムール:ニコラ・ザッカリア(B)
ピン:フェルナンド・コレナ(B)
パン:マリオ・カルリン(T)
ポン:レナート・エルコラーニ(T)
皇帝アルトウム:ガエターノ・ファネルリ(T)
代官:エツィオ・ジョルダーノ(Br)

聖チェチーリア音楽院管弦楽団&合唱団
指揮:アルベルト・エレーデ

録音:1955年7月 ローマ、聖チェチーリア音楽院(ステレオ)
 
 データにある通り、初期のステレオ録音である。デッカは歌劇全曲盤に力を入れだしていたが、その中の一つである。タイトルロールは当時有名なドラマティック・ソプラノのインゲ・ボルク。ワーグナーやR.シュトラウスのオペラのイメージが強いが、やはりニルソン同様にこの役はこういう人でないと務まらないのであろう。オーケストラや合唱や他の役柄の人たちがいろいろやっている中で、一頭とびぬけて歌う箇所があるが、そういったところはやはりこの人かニルソンのものだった。
 
 このアルバムはカラフをマリオ・デル・モナコがやっているから、興味を覚えた。NHKイタリア・オペラの初期に何回も来日し、その輝かしく、かつ強靭な歌声を披露してくれたスターだった。ここでも「黄金のトランペット」の面目躍如で、コレッリもドミンゴも敵ではない感じた。一方、リューはレナータ・テバルディがやっていて、本来プッチーニはこの役に思い入れをしていたのではないかと思われるほどだ。タイトルロールよりも出番が多く、アリアも有名なものが多い。この役の死で終えた方が余韻があると感じ、初演初日のトスカニーニの処置は理にかなっているように感じるのだが、如何であろうか。

憲兵とバラバラ死美人(並木鏡太郎・新東宝1957年)

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(C)国際放映
 
 CSの映画劇場のプログラムを眺めていると、珍しい作品に遭遇する。これもその一つ。新東宝が大蔵貢を社長に迎えて取った路線はエログロと奇抜企画だった。これはそうした流れの一つと理解していたが、実際観てみると、題名ほどグロテスクな内容ではなかった。主役は憲兵だが、純粋に捜査ものである。ただし、死体を放り込んだ井戸の異常さに気付かない軍隊とはちょっとおかしな部分もある。
 
 配役を見ると、後年、国際放映で製作された多くのテレビドラマに登場した俳優たちが揃って出ている。主役の中山昭二などはその代表格だ。また戦前子役として出ていた小高まさるも長じて新東宝で俳優活動をしていたのを確認できる。

吹奏楽の軌跡~歴史と名演Vol.1

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第1巻 日本最高峰のディレクターズバンド
①ホルスト:吹奏楽のための組曲第1番変ホ長調
②ホルスト:吹奏楽のための組曲第2番ヘ長調
③グレイジンガー:音楽物語「笛吹パンの物語」(編曲:ウィング)
④ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲(編曲:タマニーニ)
⑤バーンス:アルヴァマー序曲
山本正人指揮 東京藝術大学卒業生によるスーパー・ウィンド・オーケストラ
 
 ユーキャンから出ていたのだが、珍しく興味を覚えたので購入する気になった。その巻頭にあったのが、これである。演奏しているのは指揮も演奏も東京藝術大学の出身者ばかり。NHK交響楽団員を始め、大学の教員なども含まれている演奏達者たちが終結したものだ。指揮者の山本正人はトロンボーンの先生として有名だった人で、その教則本も書いている。その山本の呼びかけに参集したような録音である。百戦錬磨の奏者たちのアンサンブルで聴くと違った印象を受けてしまう。
 
指揮
 山本正人 (昭和14年卒) 東京藝術大学教授
フルート
 小泉 剛 (昭和31年卒) 読売日本交響楽団
 金 昌国 (昭和41年卒) 東京藝術大学講師
 小泉 浩 (昭和42年卒) 東京藝術大学講師
オーボエ
 似鳥健彦 (昭和32年卒) NHK交響楽団
 小島葉子 (昭和39年卒) NHK交響楽団
 浜 道晁 (昭和43年卒) NHK交響楽団
クラリネット
 千葉国夫 (昭和13年卒) 名古屋芸術大学教授
 北爪利世 (昭和16年卒) 桐朋学園大学教授
 三島勝輔 (昭和31年卒) NHK交響楽団
 田口利定 (昭和33年卒) 東京藝術大学講師
 浜中浩一 (昭和35年卒) NHK交響楽団
 村井祐児 (昭和38年卒) 東京藝術大学助教授
 須藤清子 (昭和38年卒) 玉川大学講師
 山本祥子 (昭和40年卒) フリーランス
 海鋒正毅 (昭和41年卒) 東京藝術大学講師
 鈴木良昭 (昭和42年卒) 新日本フィルハーモニー交響楽団
 千葉直師 (昭和45年卒) NHK交響楽団
 山本正治 (昭和48年卒) デュッセルドルフ歌劇場
ファゴット
 菅原 眸 (昭和35年卒) NHK交響楽団
 霧生吉秀 (昭和38年卒) NHK交響楽団
 山本 忠 (昭和40年卒) 東京都交響楽団
 前田信吉 (昭和41年卒) 東京藝術大学講師
サックス
 石渡悠史 (昭和35年卒) 国立音楽大学助教授
 大室勇一 (昭和38年卒) 東京藝術大学講師
 中村 均 (昭和41年卒) 東京音楽大学講師
 富岡和男 (昭和44年卒) 東京藝術大学講師
 佐々木雄二 (昭和48年卒) 武蔵野音楽学院講師
 鈴木秀之 (昭和48年卒) 日本音楽学院講師
トランペット
 金石幸夫 (昭和16年卒) 東京音楽大学助教授
 福井 功 (昭和34年卒) NHK交響楽団
 大蔵康義 (昭和34年卒) 東京藝術大学講師
 北村源三 (昭和35年卒) NHK交響楽団
 来馬 賢 (昭和38年卒) NHK交響楽団
 板倉駿夫 (昭和45年卒) 読売日本交響楽団
 藤井 完 (昭和46年卒) 東京藝術大学講師
ホルン
 千葉 馨 (昭和24年卒) NHK交響楽団
 山本 真 (昭和45年卒) NHK交響楽団
 大野良雄 (昭和45年卒) 東京フィルハーモニー交響楽団
 輩止隆麿 (昭和45年卒) 読売日本交響楽団
トロンボーン
 伊藤 清 (昭和37年卒) NHK交響楽団
 野武重忠 (昭和39年卒) 東京藝術大学講師
 秋山鴻市 (昭和44年卒) 駒澤大学講師
ユーフォニアム
 山本 孝 (昭和41年卒) 東京音楽大学講師
 三浦 徹 (昭和46年卒) 国立音楽大学講師
チューバ
 宮川暉雄 (昭和35年卒) 新日本フィルハーモニー交響楽団
 納原善雄 (昭和36年卒) 駒沢女子短期大学教授
 安元弘行 (昭和41年卒) 東京都交響楽団
 田中眞輔 (昭和42年卒) 東京都交響楽団
 香川千楯 (昭和44年卒) 札幌交響楽団
 稲川栄一 (昭和44年卒) ケルン・ギュルツェニッヒ管弦楽団
コントラバス
 江口朝彦 (昭和31年卒) 東京藝術大学助教授
 黒川 健 (昭和35年卒) 東京藝術大学講師
パーカッション
 有賀誠門 (昭和34年卒) 東京藝術大学助教授
 岡田知之 (昭和35年卒) NHK交響楽団
 高橋美智子 (昭和37年卒) 東京藝術大学講師
 百瀬和紀 (昭和40年卒) NHK交響楽団
 今村三明 (昭和43年卒) NHK交響楽団
 福田 隆 (昭和51年卒) パーカッション・アンサンブルG 72
ハープ
 桑島澄子 (昭和34年卒) NHK交響楽団

※所属は1981年録音当時
 
 さて、この全集は明治時代の軍楽隊の演奏に始まり、コンクールの録音や海外の演奏集団も抱合したものだ。逆に素人とプロとの差異が明確になったような全集でもある。これからおいおい聴いたら、書き込む予定である。

混血児リカ ハマぐれ子守唄(オフィス203・近代映画協会1973年)

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 この映画は吉村監督のフィルモグラフィで題名だけは、以前から知っていた。キネマ旬報でその記事が取り上げられていて、原作は漫画であることもわかっていたが、なかなか観る機会のない作品ではあった。ようやく、観たがそれまでの吉村作品とはまったく異なるものであった。
 
 吉村監督というと芸達者な俳優が揃って、ケレン味たっぷりの大芝居を展開するというイメージだったが、これはほぼ素人同然の人たちばかりで、ここで様子が全く違う。キャメラマンなどは「こころの山脈」でも組んだ記録映画出身の杉田安久利が担当、脚本も長年のコンビを組んだ新藤兼人といったスタッフが揃っている。むしろ、新藤の関心がこの企画を成立させたのだろうか。
 
 その契機にはなったのは何だろうか。底流には混血児問題と基地問題なのだろうと思う。これは既に今井正監督が「キクとイサム」という名作を送り出している。それをもっとわかりやすく劇画を素材にして、やろうということだったのかもしれない。実はこれより先に中平康監督によって2作先行して製作、吉村監督は最後の3作目を担当したという形である。一度病に倒れて、「こころの山脈」で復活、かつての仲間の新藤兼人が主催する近代映画協会で数本監督したり、テレビで時代劇作品を撮ったりしていた時代だ。まだ本調子ではないような気がする。そして、自らの企画「襤褸の旗」の製作に挑むが、それが映画での遺作になってしまった。
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