初見は立川名画座というところで雷蔵特集をやっていた折。山本薩夫監督の「忍びの者」と二本立てだった。残念ながら、プリントの状態は悪く、しかも技師が巻の順番を間違えて、映画を滅茶苦茶にしたというおまけ付だった。その後、何度か他の名画座で観ている。
さて、映画会社の看板スターながら、こうした差別される側の人物に扮する市川雷蔵の姿勢が凄いと感じ入った。同じ市川崑監督の「炎上」でもしかり。しかし、こちらは表面上は好青年である。そういえば山本薩夫監督が、京都のスターにしては謙虚で進歩的な人だと回想していたが、ここらもそういう表れだと思う。時代劇の殺陣は必ずしもうまいわけではない。腰がすわってないという指摘は初期からあった。だが、台詞は明解で美しい日本語を喋ってくれる。ここでもそれが遺憾なく発揮されている。
なお、原作を読むと、村を去る時に、教え子たちの見送りはない。校長が許可しなかったのだ。だが、映画ではそれに従っていない。これは木下恵介監督版でも同じ。あまりにも結末が厳しすぎるからだろうか。