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Channel: 趣味の部屋
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野菊の如き君なりき(松竹大船1955年作品)

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 伊藤左千夫の「野菊の墓」の映画化。映画では信州が舞台だが、原作のそれは千葉県の松戸界隈だったと記憶している。何せ明治時代の話だから、今は首都圏でも当時はかなり「田舎」でそれこそ隔世の観はあろう。しかし、木下監督はどうも信州が好きなようで、舞台を移したのだろうか。1955年当時でも千葉県では感じが出なかったと判断したのだろうか。

 さて、この作品は基本モノクロスタンダードだが、周囲は白くなっていて中心が卵のように楕円の中に人物や風景が展開する。久しぶりに帰省する老人(笠智衆)の思い出話が主なストーリーという形だ。詳しくこの老人は記憶しているのではないという表現だ。だから、思い出そうとしているのか、開始するときは画面全体が白くかすむこともある。やがて声が出てきて、しかし、画面全体に映像が出るのではなく、楕円状に話は展開するのだ。遠い記憶のそれもホロ苦い追憶である。それが何とも観客に特殊な感情を起こさせる。当時、木下恵介監督の才気が最高潮に達した時の象徴でもある。

 主人公に扮する若い俳優は素人同然の人たちだが、木下監督はうまく使っている。こういうのもこの監督の冴えの一つだと思っている。二人の内、有田紀子はあまり女優として稼働していなかったように思う。木下監督の翌年の作品「夕やけ雲」でほんの端役で登場した程度ではなかったか。一方の田中晋二は60年代まで俳優として活躍していた。初期の大島渚監督作品なんかにも出ていた。

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