第8回午前十時の映画祭の最後を飾る作品だった。今回は4K修復版によるデジタル方式による上映である。前後に当時撮影助手を務めた川又昂が監修している表示と、最後に「差別用語が台詞に出るがそのままで上映した断わりがあるのが今風ではあった。
前にも記事にしているので繰り返しは避けたいが、この監督の晩年の関心は家族問題だったようだ。特に親子関係だ。一見、原節子扮する末娘が結婚する顛末記のように見えるが、この映画の中心は菅井一郎と東山千栄子扮する老夫婦ではなかろうかと思った。現役の息子の邪魔にならないように娘の結婚を機に郷里に引っ込むところで映画は終わる。終活のあり方を示した作品だ。またヒロインが嫁ぐ前の覚悟を決めた台詞も忘れられない。相手は幼馴染ながら子持ち。しかし、うまく折り合えるという自信と上司から話のあった相手はやり手で学歴も申し分ないが、40過ぎても独身というのが信用しかねるとはっきり云う。美人でどんなところへ嫁入りするかと親は期待していたが、子持ちの再婚相手ということで落ち着いてしまう。
それぞれの思惑が交差して家族は分解してしまうところは後年の核家族化の予感を思わせる。しかしまだ遠くにいる親族を思いやる心情はまだあった頃だ。小津監督の観察眼に圧倒されてしまった。掲載の写真は最後の家族写真を写すシーン。この後ヒロインは両親だけの写真も所望する。