(収録内容)
①ブラームス:交響曲第1番ハ短調作品68 January 16,1956
②シューマン:交響曲第1番変ロ長調作品38「春」 September 18,1955
ヘルマン・アーベントロート指揮
①バイエルン国立管弦楽団 ②ベルリン放送交響楽団
アーベントロートの最晩年の録音が出てきた。普段多く出ていたライプツィヒ放送交響楽団ではない楽団を振っているのが目に留ったのだ。このうち、シューマンの方は当時常任していた楽団だが、ブラームスの方は西側でミュンヘンを本拠とする楽団との共演が面白いと思ったのだ。そして演奏自体ものけぞるような演奏でまさに怪演というべきか。とにかくテンポが速い。殊にフィナーレは顕著で、オーケストラの方も戸惑っているように聴こえる。リハでの打合せとは違った即興的なことをやっているのかもしれない。枯れた演奏なんぞ、やらないと宣言しているようなものだ。これがこの巨匠の死の4カ月前のものだ。シューマンの方は幾分、オケの方がクセを知っているのか、戸惑いみたいなものは感じられなかったが、こちらも他の演奏に比べると速い感じがする。
この人はフランクフルト・アム・マインの出身だから、ドイツの西部に生まれて、学んだ人。たまたま赴任したのが東ドイツになったライプツィヒとかワイマールだったというだけにすぎなかったということらしい。政治的な背景はあまり感じられない。普段は自転車で町を移動していたらしく、市民にも親しまれていたという。イェナに客演した時に急死、葬儀は本当に敬愛されていた人物だったのがわかるようなものだったという。まだ、国家的には分断されていたが、国境には壁もなく、比較的二つのドイツは往来できた。どうしてもウルブリヒトがベルリンや東西国境に強固な壁を設けたイメージが強いので、①なんかは奇異に感じるが、この当時は自由に行けたのである。そうしたことを物語る録音でもある。
音質はモノラルではいい部類だ。ターラはオーナーが亡くなって休止しているらしいが、アルトゥスがオーナーの未亡人に了解を得て、出したものだという。ファンとしてはありがたいと思う。