この映画は1971年5月5日に封切られた大映作品である。永田大映の最後の年の作品で、かつて名作をどんどん作っていた勢いは画面から全く感じられなかった。会社の状況が厳しいことを反映してか、演技も演出もどこか冴えない感じがする。若い俳優、関根恵子、篠田三郎、小野川公三郎、松坂慶子の演技とベテランの伴淳三郎、三崎千恵子、近藤宏らの演技がうまく噛み合ってないのが、痛い。加えて話自体がどこかありふれたような話なのである。他は大映の東京撮影所でお馴染みの脇役たちも登場するが、影が薄い。
湯浅憲明監督と云えば、ガメラを製作してヒットさせた監督だが、こういうメロドラマは特色が出せないようだ。監督のご尊父はやはり大映東京のベテラン俳優の星ひかるだ。日活多摩川時代からの人で「ガメラ対バルゴン」では1シーンながら登場、親子揃ってのクレジット表示となった。しかし、資金を多く要する特撮物はこの時代になると大映ではできない状況だったのに相違ない。そこで新進の関根恵子主演のドラマを任されたが、成功したとは云えない。残念ではある。
俳優の中で、三崎千恵子は長らく劇団民藝のメンバーで主に日活作品への出演が多かったように思う。大映作品は珍しいが、役柄は日活時代のものに近い。既に「男はつらいよ」の映画シリーズは開始されており、シリーズと並行しての出演ということになる。おばちゃん役とは180度違う役柄に注目したい。松坂慶子は松竹のイメージが強いが、子役に始まり大映でキャリアが始まっている。若手の中では一番の演技力があるところを見せた。篠田三郎も大映出身の人。増村保造監督の「赤い天使」なんかに若い兵隊役で顔を見せていた。この映画で関根恵子の相手役をしていたことなど知る由もなかった。(中学生で映画には当時関心がなかった。)寧ろテレビドラマへの登場で知ることとなる。