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愚なる妻(エリッヒ・フォン・シュトローハイム監督・アメリカ:ユニヴァーサル1922年)

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 この映画は世界的に知られた作品だが、なかなか観る機会がなかったが、ようやく果たせた。何でも8時間くらいの尺になったのを会社側から短縮するように云われて108分くらいになったのだという。中にはクリティカル・エディション版というのがあって143分くらいのものもあるようだが、残念ながら情報を持ち合わせていない。つい数年前までフィルムが散逸して70分くらいになっていた云われている。ともかくも修復されるのは歓迎である。
 
 舞台はモナコ公国。カジノに巣食う詐欺師の一団。ロシア貴族を名乗って、偽札などで客から金を巻き上げるのだ。その公国にアメリカから赴任した大使夫妻。夫の多忙に比べたら妻は閑なのである。その妻に漬け込む詐欺師の偽ロシア大尉が監督も兼任しているエリッヒ・フォン・シュトローハイムである。どうも会社幹部や他のスター俳優との確執があって、この数年後に監督を馘首されて、以後俳優として活動する人である。本当はオーストリア出身で出自は貧しいユダヤ系の家庭に生まれたが、虚勢を張ってvonを付けたらしい。この人の監督作品はこれが初めて。俳優としてなら、フランス映画「大いなる幻影」での貴族のドイツ軍将校を熱演していた姿でその存在を知った。戦後はビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」でかつての大女優の執事役。その大女優をやったのが確執した相手であるグロリア・スワンソンだから皮肉である。そしてこの映画にはサイレント3大巨匠の一人セシル・B・デミル監督が本人役で登場。3人のうち後の2人はグリフィスともう一人誰あろうシュトローハイムなのである。ラストにこの執事がカメラにキューを出すところは彼の本来の姿なのだと思ったものである。
 
 この映画は割とリアルのある映画だ。サイレントだからいい加減なことを喋っている場合が多いが、本当に台詞を喋らせていたらしい。偽大尉が排水マンホールの蓋をあけて汚物を棄てているのをみて、臭そうに顔をしかめるのだが、彼も殺されてそのマンホールに投げ込まれるという伏線になっているのも、心憎い仕掛けである。モンテカルロはハリウッドに建てられたオープンセットで自動車も本物の欧州車を走らせたとのこと。冒頭、メイキングの風景が出て、しばらくして本篇に入るのも斬新な構成だった。

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