ずいぶん前に衛星劇場で「蔵出し映画」の1本として流れていたのを録画してそのままにしていたものを取り出して観てみた。資料によると1950年12月29日の封切りとなっているから、1951年の正月映画として公開されたのだろうと思う。川口松太郎の原作を八住利雄がシナリオにして撮影された。キャメラマンは三村明。音楽は早坂文雄が担当。スタッフの陣容は一流どころが揃っている。話もメロドラマながら構成もきっちりしている。没落貴族が出てくるのも戦後の風物である。
だが、何故かレアな作品として忘却されてしまっているのは何故か。メロドラマの主人公として藤田進は無骨すぎて明らかにミスキャストに思える。池部良が彼の友人役で登場するが、むしろ彼にやらせたらと思うことしきりである。他のキャストがそれなりに性格にあった役柄だけに惜しい感じはする。没落貴族の話も1950年ともなるとありきたりだったのかもしれない。この3年前の吉村公三郎監督の「安城家の舞踏会」ほど鮮度はなかったようだ。高田稔の生活力がないが見栄だけあるというのも典型的かもしれない。総じて平板な感じで忘れられてしまったのだろう。なお、久慈あさみが主人公の婚約者で登場するが、これが映画デビューのようである。また後年TBSのドラマのプロデユーサーとして活躍した石井ふく子の名前が出演者にクレジットされている。どの役か自信がないが、主人公が住む下宿アパートの管理人の女の子役かもしれない。石井さんが若い頃は役者だったと聞いたことがあってこれは貴重な映像と思える。