本作は「人間の条件」を取り終えた後に製作した作品。有名な時代劇「切腹」の直前作でもある。製作は「人間の条件」同様に「にんじんくらぶ」という独立プロだ。岸恵子、有馬稲子、久我美子らが同人となったブロダクションで、その一人の岸恵子が主演している。この当時は結婚してフランスに生活の場があったから、数少ない日本映画への登場だったわけである。共演の仲代達矢とはあまり同じ場面で芝居したシーンがないという珍しい現象まである。おそらくは二人の予定のズレから来るものだったろうと思うが、うまく編集して違和感がないようにしてある。
遺産相続をめぐる泥試合がドラマになったものだが、今観ても今日的である。こうしたことをあまり当時の日本人は意識していなかったのだろうか。悪徳弁護士まで登場する。題材が題材だけにあまり興行的にはパッとしなかったようだし、評論家の受けも今一つだったようだ。比較的、小林作品としては目立たない作品ではある。共演はなかなか豪華で山村聰、川津祐介、宮口精二、渡辺美佐子、芳村真理、千秋実、滝沢修らが脇を固めている。また、チンピラ役に蜷川幸雄なんかも出ていて、時代を感じる。