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Channel: 趣味の部屋
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この広い空のどこかで(松竹大船1954年作品)

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 小林正樹監督は生誕100周年を迎えたのか、各地でその作品が上映されたり、DVDが発売されたりしている。監督の代表作は何と言っても「人間の条件」で、社会性のある作品や重厚な作品が多いのだが、これは初期の師匠・木下恵介監督譲りのリリカルな作品である。こんな作品も撮っていたのかと初めて観たおり(横浜大勝館という場末の映画館だった)、驚いたものだ。シナリオはその木下監督の妹でコンビを組んでいた楠田キャメラマンの夫人の楠田芳子、撮影用に手を入れたのが同門の松山善三だから、木下色が濃い。悪人は全く登場せず、善人ばかりが登場して、やや楽観的な世界が展開する。

 小林監督はこの前年に「壁あつき部屋」を撮る。BC戦犯を扱った野心作だったが、松竹首脳はアメリカあたりの圧力を恐れて、3年間封印してしまう。どんな思いで小林監督はいたのだろうか。悔しかったのではないか。しかし、とりあえず会社を飛び出さず安定的にメガホンが取れる道を選んだのではなかろうか。ここは会社に恭順の意を示すべく、あたりさわりのない作品を撮ることにしたのではなかろうか。「壁つき部屋」が1956年に解禁され、やはり野心作の「あなた買います」と同時に公開されるや、思い通りの作品を撮るようになったように見える。

 「黒い河」では基地問題であり、「人間の条件」は周知の通り、日本軍の「告発」である。「切腹」は時代劇の形を取った体制批判みたいなところがある。もうここらあたりになると松竹の枠を大きく出てしまっている。木下恵介監督に助監督として付き、「破れ太鼓」ではシナリオにも参加している。しかし、師匠の亜流ではなく、全く違った世界に踏み込んだのは凄いと思うのである。

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