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Channel: 趣味の部屋
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安宅家の人々(久松静児・大映東京1952年)

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 久松静児監督の代表作の一つ。吉屋信子の同名小説の映画化で、後に2008年にフジテレビ系列でもドラマ化されたそうだが、そちらはよく知らない。

 知的障害を持つ長男に仕える妻は旧家を守り、養豚場を切り盛りしている。そこへ腹違いの弟夫婦が事業に失敗して戻ってくることから、波乱が起きる....。多分にキリスト教的な贖罪みたいなものが通奏低音となって物語が展開していくように思う。長男の妻はまじめ一方で融通のきかない女、一方弟嫁(乙羽信子:この映画でのヒロイン)は聡明で魅力的な女性である。夫の山師的なところに次第に違和感を覚えだしている。障害はあるが純真な長男を気にかけるようになる。そしてこの長男も彼女を慕うようになる。

 この作品は割と以前からテレビ放映された作品であった。船越英二の知的障害の演技は目を見張るし、彼が数を数えるときに云う「チュウチュウタコカイナ」というのは、流行り言葉になったらしく、映画を観る前から何故か知っていた。子供心に面白いと感じたのだろう。彼の存在は「聖なる愚者」とでもいうべきものだ。しかし、周囲は決して彼を理解しない。厳格な妻(田中絹代)は教義をそのまま生活で実戦しようとするような女性で、正直こういう人とは窮屈である。この田中絹代のキャラクターは後年の市川崑作品の「おとうと」の義母に生かされているように思う。

 本作はもっと評価されていい。久松作品としても「警察日記」の影に隠れてしまっているように思う。そしてこれは新生・日活が出現する直前のもので、スタッフや演技陣にはその日活に移った人も多いのに気がつく。クレジットを見るにつけても、映画史の一端に触れられる。

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