小林正樹監督がそれまで師匠・木下恵介監督の路線の作品を撮っていたのから一転して、社会的問題を掘り起こした最初の作品である。1983年にはドキュメンタリー作品「東京裁判」を発表するのだが、されに先立つこと30年BC級の戦犯問題を扱っている。1953年といえばようやく占領時代を脱したばかりの頃。隣国・朝鮮の戦争も休戦になった年である。だが、まだ米軍の影響力は色濃く残っていて、政治的に論議を呼びそうなものは自粛するような風潮がある。折しも東宝で製作された「赤線基地」という映画が在日するアメリカ人から非難を受けて公開延期になるという事件もある。これに怖気づいた松竹幹部はこの作品を自主的にお蔵入りさせることを決めてしまった。今思うと周囲ばかりを気にする如何にも日本的な現象ではある。その後、再び元の路線の作品でお茶を濁すも、次第に社会悪を孤発するような作品を小林監督は発表していく。「泉」とか「あなた買います」といった作品を発表していく。どうも本作は「あなた買います」とほぼ同じ時期に公開されたようだ。あるいは同時に2本立てで上映されたのかもしれない。
BC戦犯の問題はどこか割り切れない問題を孕んでいて、部下に責任を擦り付けて自分はのうのうと暮らすというようなエピソードも出てくる。城戸四郎以下の幹部はもっと堂々と矜持をもって経営すべきだったのにと、この映画を観るといつも思う。
本作は松竹の傍系の独立プロの製作の形を取っている。松竹専属よりも新劇畑の役者の出演が多い。こういう硬派な中に「君の名は」に出演していた岸恵子が出演している。どういう経緯かは知らないが、その後、「人間の条件」を製作する「文芸プロダクション・にんじんくらぶ」の同人の一人に名を連ねているところを見ると、小林監督の方向性に共感を持っていたのではないかと想像している。その後フランス人と結婚して日本映画の出演は少なくなるが、同人として「にんじんくらぶ」の作品には「からみ合い」「お吟さま」「怪談」と出演している。