19583年9月14日に公開された作品。既に普及していたスコープ仕様を取らずにスタンダード画面で製作されたと吉村公三郎監督作品である。ただし、アグファ・カラーで撮られている。中味は福島県の中学生が東京方面を目指して集団就職する群像を描いたものだ。狂言廻しとして、就職担当の教師が登場する。
東北の各県から大挙してやってきた「金の卵」の話はニュース映像や文献で知っていたが、その実態を垣間見せた異色作だ。吉村監督は女性主体の風俗映画などを多く手掛けた人だが、戦後は特に左翼的な視点から社会的な要素を加味した作品も多く発表していた。「夜の河」など風俗的な作品にもメーデーなどを描いたような作品もある。(小津監督から観客に砂を噛ませるようなことをするな、と怒られたという。)
映画は郡山の駅に集団就職専用列車を待つ風景に始まり、都内某所に集められてそれぞれの雇い主に引き渡される様子が出る。まるで家畜の市場みたいで今だったら、考えられない光景ではある。そして、労働基準法など平気で破る工場主や経営破綻で職を失い、不本意な職場に身を落とすものがいたりとなかなか深刻な内容だ。ただ、必死に頑張るこうした人たちが日本の経済成長を間違いなく支えたのだ。それを思うと胸が熱くなる。
この映画で生徒役になった俳優たちは子役主体の劇団の出身者が多いが、長じて役者として残ったのはほんの一部ということも如実に示している。それだけこうした芸能の世界は厳しいのだろう。この中で知っているのは松山英太郎しかいなかった。当時は前進座の所属。父君は同劇団の幹部、河原崎国太郎だ。多分厳しく仕込まれていたのではなろうか。