吉村公三郎監督が新藤兼人と組んで製作した1本。残念ながらこの作品はあまり上映される機会はないようである。封切当時あまり興行成績がよくなく、「森の石松」同様に松竹幹部からはこのコンビを危険視して、彼らが一緒にならないように厳命してしまう。それが独立プロへ走る契機になったのは周知の通り。
内容は「安城家の舞踏会」同様に没落貴族の話だが、「安城家の舞踏会」は名作として上映機会も多いのに本作はそれほどではないのか。題材は似ていても、こちらの方がやや世知辛く共感を呼びにくい内容だからだとお思う。主人公はもう正常な精神状態ではなく、周囲の縁戚の連中は欲の皮の突っ張った連中ばかりだ。こういう連中ばかりが目立ってしまって、観ていて後味の悪さが残ってしまう。初公開当時もそうしたことで成績が悪かったのではなかろうか。宝は何も金目のものではないということなのだろう。ヒロインは昔の思い出を抱きながら亡くなってゆくし、彼女の昔の恋人も発狂して昔の面影がなく、精神病院に収容されてゆく。残った親族は何とか金になるものを捜し無駄だと知るとさっさと引き挙げていくという胸糞の悪い情景が展開されていく。ヒロインの理解者は老女中とヒロイン亡夫の妾の娘だけという幕は空しさだけが残る。