黒澤明監督が旧来の制作陣と組んだ最後の作品ともいえる作品。それまでの集大成でもある。概ね山本周五郎の原作に準拠しているが、少女おてる(二木てるみ)のエピソードはドストエフスキーの「虐げられた人びと」を翻案したものと言われている。髷をつけているが、チャンバラはなく、人情の機微を描き上げた独特の世界になっている。 山本周五郎の小説は殆どそうした人の心理を描いたものが多い。設定がいつの時代になってもだし、身分の高下を問わない。ドストエフスキーによるエピソードも同じような感じだから、違和感はない。
今回、新・午前十時の映画祭に組み込まれて、久々にスクリーン鑑賞ができた。デジタル方式の上映は今回初めて体験するが、時折何故かコマ飛びがあったのは意外だった。使用したソフトが原因か、原版に起因するのかはわからない。そして、観客が一桁台という状況は更に驚く。かつては東宝がなかなか上映しなかった作品で、久々のリバイバルでは劇場が満員になる盛況だったのを知る者には寂しい感じがした。