1943年4月に公開された今井正監督の作品。北鮮地方の国境を警備する警官隊の話である。冒頭に昭和10年(1935年)頃と出る。したがって、本格的な戦争状態ではないものの、満州で討伐されたパルチザンがこの地帯の山岳に入り込み、警備隊と局地的に摩擦を起こしていた時代である。興味あるのは、警備隊にも朝鮮出身者が日本人に交じっていることと、まだ日本名にはなっていないことである。そして、酒宴が始まると半島出身の警官が、朝鮮民族の歌や踊りをするシーンがあることだ。内鮮一体を掲げていた朝鮮への施策の反映した映画である。出演者も、朝鮮映画で活躍していたスタッフや俳優が起用されている。そういう背景でこの映画を見ないとこれはとんでもない映画ということになってしまう。
内容はパルチザンたちが、警察の施設も含む集落を襲い、もう少しで全滅するところへ応援隊がやってきて、事なきを得るというものだ。製作にあたり、今井正監督は評論家の双葉十三郎に相談したという。アメリカ映画に詳しい双葉は「ベンガル騎兵隊」や「ボージェスト」などを挙げて、あの呼吸でやってみろとアドバイスしたそうだ。戦後、あまりアクションの多い作品を撮らなかった今井作品には珍しい活劇になったのは、そういう背景がある。宣伝映画ながら、あまりそういうことが前面に出ず観客を喜ばせたようである。
もう一つ、おまけの話がある。戦後、今井監督は日本共産党員となるが、北朝鮮は入国を最後まで拒んだという。それはこの映画に起因がある。本作の舞台は北朝鮮の領土。国境はこの当時は満州とのそれだが、今は脱北者のニュースで有名になった中朝国境地帯である。親日的な朝鮮の人たちが出てくるのと、襲いかかるのは彼らの国を建てた人たちに繋がるからだ。まさに映画は時代の鏡であると思う。