山本周五郎の「深川安楽亭」を仲代達矢の夫人、隆巴が脚色して、小林正樹監督がメガフォンを取った時代劇。原作の題名は密貿易に携わる悪党たちの巣窟である一膳飯屋のことである。
悪党ではあるが、ここに出てくる男たちは人情味が残っていて、若いカップルを助けるために最後の奮闘するという話。山本周五郎の原作だから、どこか人情の機微が描かれている。原作は読んだことはあるものの、かなり前なので、曖昧な記憶の彼方でしかない。
映画はかなり演劇的な匂いの強いものになっている。ほぼ、場所が限られている。出ている連中も俳優座を始め、前進座の御大の中村翫右衛門まで出ている。映画俳優は、名無しの男役の勝新太郎と若い娘役の酒井和歌子くらいである。したがって、映画としてはやや演技に違和感があるのだが、見応えはある。71年の作品にも拘わらずモノクロ作品。殺伐とした雰囲気を盛り上げていると思った。