子供の頃、レコード会社の名前のオーケストラは、その会社専属の団体でスタジオ・ミュージシャンを抱えているとばかり思っていた。事実、流行歌などはそうした形態はあったようだ。たとえば「ビクター・オーケストラ」とか「コロムビアオーケストラ」といった類だ。
しかし、これがクラシックになると、海外の事情になるので、少し変わってくる。上京して大学に入ってから、その辺りの事情に詳しい仲間がいて、ブルーノ・ワルターが指揮している「コロムビア交響楽団は西と東と別にある」というようなことを教唆されて、ヘ~と言って目を丸くしたものである。その後、レコードにクレジットされている「コロムビア交響楽団」「RCAビクター交響楽団」「キャピトル交響楽団」とはどういうことか、関心を持ちだした。
件のワルター盤以外にも「コロムビア交響楽団」を指揮した人は数人いる。その内、イーゴリ・ストラヴィンスキーが自作を録音するのに使用した団体はワルターの専属のものと同一らしい。しかし、他の人やワルターでも一部のものは西海岸の団体ではないことがあることが理解できるようになった。アメリカは契約社会なので、本当の名前を出せないことがあったり、寄せ集めのピックアップだったりする場合の方便だということだ。それは「RCAビクター交響楽団」なども同じことであることも。
それからレコード会社はオケの名称を変えたりもする。たとえば戦前RCA専属だったフィラデルフィア管弦楽団は「フィラデルフィア交響楽団」と記されていたり、ウィーン・フィルが「ダニューブ交響楽団」、LSOが「テームズ交響楽団」といった具合にやりたい放題の例もある。専属の関係もあるだろうが、一種の営業戦略もあったのかもしれない。専属の関係で本当の名前が出せない場合、適当に名称変更した事例はデッカ系の会社がNYPを起用して、録音した折に「ニューヨーク・シタジアム交響楽団」という名称を使っている。当時はCBS専属なので、本名を名乗れない方便である。こうしてみると音楽というよりは契約とか営業的な作戦だったりの問題で別の意味で興味深いテーマではある。