松本清張の同名小説を映画化した作品は2つある。ここではテレビ・ドラマは除外しておきたい。まずは1965年の松竹大船で制作された山田洋次監督作品。山田作品としては唯一シリアスなサスペンスものである。脚本は橋本忍でカッチリとした構成で、時折ヒロインの回想を交えるという手法を使いながら、物語は進行してゆく。次はその12年後の1977年の暮れに公開された西河克己監督によるもの。こちらは服部佳によるシナリオで、過去の回想はヒロインが上京する折、兄妹の幼い頃の思い出が車窓に映るくらいで、専ら現在の話に集中している。
高名な弁護士に紹介状もなしに事務所まで出掛けて身内の弁護を依頼するが、弁護士の方は多忙を理由に断る。ヒロインはそれを恨み、その弁護士に復讐するというもの。弁護士も心の底に罪意識があったのか、何故か事件の全貌を後で追ったりする。復讐の機会は弁護士の愛人が殺人容疑をかけられることで訪れる。二つの事件は同じ人物の犯行だったことを匂わせて、未解決のまま話は終わってしまう。
ヒロインはかなり強情で、思いつめると直情径行なところがある。復讐としても理が合わない。しかし、自分の身に火の粉が降らないと無関心を決め込んでしまう人間の性みたいなものを清張は突いて、問題を投げかけているような感じだ。
映画としてはやはり山田版の方が質はいい。西河版もまとまっているが、本来は脇役であまり登場しない若い雑誌記者を無理にでも引き立たせようとして、話が少し矮小化してしまっているのが残念である。前者は本当に手一杯で有力な依頼まで断っているところが出るが、後者は政治汚職が関連しているような風でしかもそれはあまり本筋に関係ないような話だ。何か胡乱な存在設定なのも少し作為的に思えた。