ナチス政権下時代のベルリン・フィルを、団員の証言と当時の演奏を中心とした映像により活写したドキュメンタリー『ベルリン・フィルと第三帝国』(原題:The Reichsorchester)をご紹介します。楽団創設125年を迎えた昨年、同フィルの125周年フェスティバルに前後して上映され、非常に高評価を得た同作品。日本語字幕もご用意し、わが国でもクラシックファンの皆さまのみならず、多くの歴史ファンにご覧頂きたい作品です。
映画『ベルリン・フィルと子どもたち』の監督、エンリケ・サンチェス・ランチが手がけたドキュメンタリー。125年という楽団の長い歴史の中でタブー視されてきた1933年~45年までのナチス政権下にスポットを当てた作品です。1936年ベルリン五輪で指揮するリヒャルト・シュトラウスの初出映像をはじめ、ヒトラー生誕記念前夜祭でのフルトヴェングラーの第九、楽団をバックに演説するゲッベルスの映像などを収録。当時を振り返りながら語る楽員へのインタビューを元に第三帝国下の楽団を検証していきます。(発売元コメント)
出た頃は、あまり気にならなかったが、2回ほどベルリンで、このオーケストラのコンサートへ行かせてもらってから、俄然興味がわいた。ことに旧フィルハーモニーについて、いろいろと知りたいと思うようになった。今は、兵どもが夢の跡、といった体で跡地はアパートの中庭みたいになっているようだ。残念ながら、現地には行けてないが、この記録映画を見るとどんな外観で中の様子もしっかり出てくる。
さて、普段録音で聴いているので、BPOのクレジット以外のそれぞれの楽員の顔などわからないでいる。しかし、過酷な時代には殊に楽員個人個人が大きなドラマを体験しているはずである。この映画はそんなところを描いたものだった。撮影当時、存命だった人は出演しているが、物故したメンバーはその息子や娘が出て証言していた。ユダヤ人のメンバーはこのオーケストラを去らないといけなかったし、バリバリのナチス党員のメンバーも少数ながらいて、周囲は彼らを警戒していた話など生々しかった。戦後、彼らは追放されていることも出てくる。フルトヴェングラーを始め、クナッパーツブッシュ、エーリヒ・クライバー、R.シュトラウスブルーノ・キッテルなどがタクトを振る姿を確認できるのもうれしい。そして、彼らがもっとも忌避したかったのは、「BPOはナチスのオーケストラ」になることも描かれている。それだからこそ、ナチス党員だったメンバーを追放して、自浄しているのである。