本作の初見は、前項の「天草四郎時貞」同様に、旧・池袋文芸地下である。ようやく映画が撮れるようになった時期の代表作と言えるのではなかろうか。
佐藤慶扮する犯罪者の男は、明らかに性格異常の変質者だ。しかし、犯罪を扱ってはいるが、犯人逮捕に眼目は置かれていない。むしろ被害にあった女性が如何に難局を通り抜けるかにあるようだ。そして、人のあり様を彼女と関わり合いになった人物たちを通して、描くといったら良いだろうか。教師、有力者の息子などが絡む。ヒロインに関係した者は全て死ぬところが強烈な印象を残す。この変質者も死刑判決を受け、村の有線放送で刑が執行されたことが発表される。これも異様な風景だ。
「天草四郎時貞」では観念的になりすぎていたが、そういう欠陥は回避されたように思う。しかし、決して容易な感じはしない。したがって、一般受けする映画とは真逆の作品と言っていい。