これは1955年5月に公開された作品。志村喬が主演した数少ない作品の1本だが、黒澤明監督の「生きる」や「七人の侍」ほど、上映される機会もなく、やや地味な存在の作品。弱小のプロ野球を率いる監督が主人公だが、家庭を顧みない昔気質の男の話だから、まるっきりの野球映画ではない。一般にも通じる人間ドラマに仕上がっている。今観るとその指導の仕方など、必ずしも理にかなったやり方ではなく、むしろ問題ある行動を主人公は取ったりする。また、最後にかつての守備位置だったであろう捕手をやるのだが、当時でも選手登録していたとは思われないのに、プレイしているといったちょっと信じられないエピソードがあったりはする。
しかし、そういうことよりも仕事一途で不器用な男の姿というのは、かつてはどこにもあったのではないかと思われる。最後に支えであった夫人に先立たれて、ようやく一人墓前で初めて泣く主人公の姿に何か胸打たれるものを感じてしまう。そういう味のある佳作である。丸山誠治監督は戦争映画しか観ていなかったが、これを観るとなかなか演出力のある監督さんだったのだなと思った。