1944年の6月に公開された今井正監督の戦前戦中の最後の作品となったもの。「軍艦の父」と言われた平賀譲の半生を描いたものである。映画は1921年(大正10年)から始まる。ワシントン条約で対英米の軍艦に対して6割の保有に制限される。せっかく建造した軍艦を沈めてしまうというところからだ。当時は戦争末期だから、当然アメリカやイギリスは悪者になる。彼らの勝手にされるという感じだ。同時に用兵部門との軋轢も描かれている。そのため、干されるのだが、今度は東大へ行って総長になって腕をふるう。だいたいそんな筋である。
公開当時、当の平賀譲は1年前に亡くなったばかりで、封切当時の観客には生々しい素材だったろうと思われる。やはり軍の機密が壁になって、平賀博士の業績は詳細には描かれないでいる。東大に乗り込んで、リベラルな思想の持ち主の経済学部の河合栄治郎を休職させたりしているが、そうしたことも描かれていない。今見るとやはり当局の意向に沿ったものになっているは仕方がない。ただ、後年の今井作品同様に割と冷静に観察しているようなところも認められる。その分ヒステリックになってないのが救いである。