「モロッコ」「嘆きの天使」といったマレーネ・ディートリヒ主演で有名だったジョセフ・フォン・スタインバーグ監督が日本で撮った珍作である。そして、これがこの監督の遺作となった。文献的にはかなり前から知ってはいたが、実際に観られるとは思っていなかった。
出演俳優は全て日本人。知らない人もいるが、半分は脇役などで日本映画を支えた人たちである。唯一の女性でかつヒロインは後年、黒澤明監督作品でも活躍した根岸明美、新東宝のスターになった中山昭二。それに近藤宏は東宝や日活の作品によく出た人だった。バリバリのスターは出ていないが、ちゃんと日本語の台詞で芝居している。撮影は京都で行われていて、その旨の表示も出る。音楽は伊福部昭で特殊撮影は円谷英二が担当しているから、「ゴジラ」の組み合わせ。他に撮影は岡崎宏三も参加している。
これだけ揃えば、さぞやと期待したが、その期待は見事に裏切られてしまった。演出が酷いのだ。晩年は落ち目とは聞いていたが、ここまでとは思わなかった。これが最後の作品かと思うと、悲しくなってしまう。また、観た版は米国で上映したもののようで、監督自身の英語のナレーションが入るので、これが結構興を削ぐ。