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Channel: 趣味の部屋
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あの旗を撃て(阿部豊)(東宝1944年)

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 この作品の存在は文献ではかなり前から知っていた。だが、実際に目に出来ようとは思わなかった。というのも、こういう類の作品は責任追及を恐れて、元から廃棄処分されたものが多いと聞いていたからだ。現にこの作品のオリジナルネガは廃棄されていたが、ポジフィルムが残されていたので、今も観られるとのことであった。
 
 まず「キネマ倶楽部」というビデオ頒布会でVHSが発売され、その後、ディアゴスティーニ社企画の「東宝・新東宝の戦争映画」の中の一つに入れられて、DVDの形で観られるようになっている。画質や音質は決して良好ではないが、全く不明瞭というのでもない。
 
 肝心の中身だが、阿部豊監督自体がハリウッドで修業した人なので、英語部分の演出も堂々とした演出ぶりだ。出演者の中村哲や大川平八郎は英語も堪能なので、フィリピン側の俳優たちの通訳もしていたようだ。後者の大川はデイヴィッド・リーン監督の「戦場にかける橋」にも将校役で登場するくらいであった。
 
 ここではアメリカ軍はとんでもない人でなしに描かれ、日本軍は解放者として描かれる。だが、実際はどうだったか。バターン死の行進の顛末と同じ経緯の話であって、非人道的行為をしたということで司令官は戦後裁判にかけられて死刑になっている。国威発揚目的だからだろうが、製作当時は既に日本は追い込まれており、よくこんな企画が成立したなと不思議でならない。現地の反応は冷ややかで、ジョン・フォード監督の「わが谷は緑なりき」の模倣を指摘する評論まであったという。そういったことを念頭に観るとなかなか興味津々の内容の映画ではある。

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