ベート^ヴェン:交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ブルーノ・キッテル合唱団
エレナ・ベルガー(S)、ゲルトルーデ・ピッツィンガー(A)、ヘルゲ・ロスヴェンゲ(T)、ルドルフ・ヴァツケ(B)
1942年4月19日 旧フィルハーモニー、ベルリン(ライヴ)
これが曰くつきの第9のライヴ録音。原盤はロシアのVENEZIAとの表記がある。ラジオ中継もあって、エアチェックした人がいたらしく、今日になっても聴かれるとされているものだ。
この約1ヶ月前にも一部ソロ歌手が異なるが、オケもコーラスも同一で第9が演奏されている。そちらは、旧ソ連のメロディアやEMIから出ていたので、よく知られていた。実はこれは4月のと同じではないかという人もしたが、今回聴いてみると3月の演奏のものとは、やや違って聴こえる。強いて言えば、こちらの方がやや粗い感じがする。戦時中のことで、社会情勢が不安になっているのは同じだが、こちらはヒトラーの誕生日を祝うようにゲッペルスから半ば強要されたものだ。そのせいか、やけになって振っている感じもある。この時、肝心のヒトラーは会場にはおらず、官邸に篭っていたそうだ。ゲッペルスの演説の後に、前プロとしてバッハの管弦楽組曲のアリアが演奏されて、その後にこの第9が鳴ったという。これが戦後、ナチスに協力したという証拠にされて、フルトヴェングラーは窮地に立たされたという。
さて、中身自体は、会場のざわつきに始まり、拍手で指揮者登場のシーンから収録されている。もちろん後の拍手も入っている。演奏中、案外会場内のノイズが聞き取れる。今のデジタル録音と比較したら貧弱な音だが、70数年前にしたら、いい状態である。フィナーレの過度なアッチェルランドはバイロイトでのライヴにもあるが、ここは乱暴なまでに速い。3月の演奏よりも凄まじく感じる。怒っていたのだろうか。解説も楽曲そのものよりも、演奏に至る経緯が詳細に書かれている。音と解説で十分かつ貴重な歴史的資料である。
なお、表表紙の写真は最前列にヒトラーに頭を下げたような光景だが、この演奏会よりも数年前のもののようだ。また、この演奏の最後の部分は記録映画にも収録されているという。実際にその一部分を観たこともあるが、専ら音楽にだけ集中しようとしている指揮者と楽員の姿が如実に映っていたのを覚えている。