訃報が公になって、各種その人となりや、出演した作品のことが大いに報道された。今少し落ち着いてきたというところか。謂わば、古いタイプの撮影所出身のスターであった。
デビュー当初の作品を観ると普通の二枚目という感じであった。任侠ヤクザのイメージは当然ない。60年代に入ってからは、専属の東映がギャングものや任侠ものを制作するようになって、そういう主役を務めるようになって、この人のイメージが定着したように思う。その間にも内田吐夢監督による「宮本武蔵」において佐々木小次郎に扮したり、「飢餓海峡」においてキャリアのエリート刑事に扮してはいた。深作欣二監督の「狼と豚と人間」や「ジャコ萬と鉄」も任侠路線とは異なった役柄ではあったが、概ねヤクザの役柄ばかりだったと思う。
転機は東映を退社してフリーになった時。山田洋次監督の「幸福の黄色いハンカチ」では東映の路線を薄っすらと継承しつつも、実直で優しい人間像を演じていた。ここらあたりから、任侠の世界ではない人物もやるようになって、いろいろな映画ファンにも観られるようになったのではないか。じっと耐えて、余計なことを言わない男の硬派なイメージがファンを惹きつけたが、実際はよく喋る人だったようだ。また、プライベートを一切明かさない人でもあった。
印象としては、決して演技がうまくはなく台詞廻しも流暢ではなかった。上記の佐々木小次郎はやはり時代劇馴れしていないこともあって、いささか生硬な感じがした。ただ、任侠のキャラクターに完全染まってしまうのに焦りを感じていたようで、いろいろな試みしている。「ゴルゴ13」や「新幹線大爆破」の主演はその表れのようだが、成功はしていない。やはり東映を離れた後の諸作から存在感が増したと言っていいと思う。中には「冬の華」のように古巣でヤクザをやっていたが、かつての恰好をつけた人物ではなく、ヤクザの空しさみたいなものが出ていた。
今は旧作を観て個人をそっと偲ぶのがいい。歯の浮いたようなお追従は故人がもっとも嫌がることではなかろうか。