最近はフィルムセンター所蔵作品を巡回して上映している企画が増えている。これは先に書いた「弁天小僧」同様にそういう機会でスクリーン上映で久々に鑑賞できた作品である。ただし、これが最後のフィルム上映による鑑賞になるかもしれない。最近、デジタル化が進行、昔の作品でもそういう措置がされれば、まだ鑑賞の機会もあろうが、そうでないとなかなか陽の眼を見ないことになる。
さて、この作品は1966年の制作だから、東映が時代劇から侠客映画にシフトしてしまった時代となる。中村錦之助もこの年以降は東映を離れてしまう。そうした状況下の作品である。殺陣も血しぶきが飛び擬音が入るので、時代劇でもかつての東映のそれではない。ただ、人と人との情の細かい描写がこの作品の特長だろう。原作にない渥美清扮するヤクザや岡崎二朗扮する若者などは主人公に元のまっとうな生活に戻るように諭されるが、それらは主人公のアンティテーゼとして、深い印影を物語に与えているように思う。
加藤泰監督の特徴であるローアングルの映像がこの作品は殊のほか目立つ。中には人物を仰角で捉えたりするので、余計そう思えるのかもしれない。