岸田国士の同盟小説の再映画化作品。戦前の吉村公三郎監督作品の方が有名だが、今は完全な状態で残っていないのが残念である。オリジナルは3時間近くの大作だったが、こちらのリメイク版は94分にまとめている。増村監督はやはり俳優にかなり早い台詞廻しを要求、テンポも吉村作品よりもかなり早い。設定もかなり変更が施されている。吉村版では主人公には両親がいたが、ここでは天涯孤独の身になっている。当然、キャラクターもかなりドライで現代風である。
吉村版では高峰三枝子の志摩啓子にあこがれるか、水戸光子の石渡ぎんを好むかで、世の男性を二分したらしいが、こちらの同じ野添ひとみと左幸子が扮しても、あまりあこがれを感じない。自分ではどちらも願い下げのキャラクターに変貌してしまっている。「二号でも、めかけでもいいから愛して」と駅の改札口で叫ぶぎんに至っては、こんな積極的な女性は今でも珍しいのではないか。多分に増村監督が留学したイタリアの影響を受けているように思える。これはこれで面白い映画ではあると思う。