市川右太衛門の十八番、退屈男シリーズにして初めてのカラー作品である。今回は琉球まで足を伸ばし、異国情緒も織り込んでの活劇である。
この映画はやはり御大右太衛門のややオーバーな所作や台詞廻しと殺陣を見る映画だが、カラー化と相俟ってその衣装も一層派手になった。今見ると保存の関係化やや赤味がかった発色になっていて、褪色が進んでいるのは残念である。これを以て、史実がどうのこうのとかいうのは野暮であり、芝居を観て楽しめるか、どうかである。あまり理屈をつけるような観方はしないほうがいいと思う。
この映画の初見は浅草公会堂での上映で、まだ御大は健在でファンの集いが開催され、その折の上映だった。上映に先立って自ら出演のショーなどもあったようだが、当時は映画だけでよいということで、映画鑑賞のみだった。会場に入る前に御大の生の声が聴こえたので、生で見ておけばよかったと後悔したことがある。
映画の冒頭に若い殿様役で江原真二郎の姿がある。この人は京都出身で、最初は京都撮影所でこうした役ばかりをやっていたというが、その中の1本。翌年、東京撮影所に転じて、今井正監督の「米」の主演に抜擢されて、東京撮影所の青春映画のスターになるのはよく知られている。「米」ではわざわざ(新人)と表記されているが、それほどこの映画の当時は目立った存在ではなかったようだ。