日活というと石原裕次郎や吉永小百合といったスターが頭によぎるが、彼らが登場するまでは、かなり路線を模索していたことがわかる。初期はこのような時代劇も撮っていた。周知の通り、戦前の日活と戦後のそれとは全く異なったものだ。戦前は大映に継承され、日活は配給専門会社になった。戦後の1954年に自前の撮影所を開設して、映画製作を再開した。当然、スターや監督の駒不足は否めず、演劇畑の劇団に依存せざるを得なかった。その劇団のうち、同社と提携したのが、新国劇であり劇団民藝だった。前者は何本かユニットで劇団総出演の映画を作っているし、後者は劇団員の出演の他、新人の演劇基礎訓練を担っていた。
この作品は新国劇のユニット作品の一つ。坂本龍馬暗殺の真相を探る内容である。主人公は龍馬に憧れ私淑する。そういう人物を殺されたのだから、犯人探しに躍起になる。だが、明治の世になってその犯人の一人を捜し当てるが、その人物も所詮駒の一つで虚しさだけが残るといった内容だった。
新国劇は殺陣もうまく、迫力はあった。しかし、この作品はそれが売りではなく、人のあり方などがしっかり描けていたように思う。組織の酷さみたいなものが描かれていた。新国劇の要である島田正吾と辰巳柳太郎が交互に主役を張っていたような印象だが、この作品は島田が主人公をやり、辰巳は敵役に回っていた。今やこの劇団もない。監督の滝沢英輔は京都・鳴滝組の流れをくむ人でこういう時代劇は得意とした人であった。新国劇の一党の他、滝沢修、三島雅夫、河野秋武らが助演している。