本当の自作自演は後の楽しみとして、次はベートーヴェンの第5番と第7番のカップリングを聴いてみる。前者が1928年、後者が1926年の録音。もうどちらも電気吹き込みになっているので、音はしっかりしている。いくぶんデットな響きはするが、普通に聴ける。
さて、これは明らかに収録時間を意識したような演奏で、第5番などは飛びきり速いテンポである。何か余裕がないというか、何かにせき立てられている感じ。そう時間内に先生、お願いしますと、レコード会社のスタッフに言われたような感じがした。第7番はあまりそんな感じはしないが、第5番は今まで聴いた中では最も速い。オーケストラはシュターツカペレ・ベルリン。戦後は東側にあって、代表的なオーケストラとして君臨していたが、ここではそんな感じはしない。アンサンブルも不揃いで縦の線が時より乱れるし、金管の中には音を外しているように聴こえる箇所もある。
さて、リヒャルト・シュトラウスは、指揮台では極めて冷静で動作もコンパクトだったという。カール・ベームに指揮は右腕だけで出来ると言ったそうだ。オペラの指揮だったかで、ピット内で実際にやろうとしたら、興奮したのか思わず左手を動かしてしまい、ベームの方を向いて苦笑いしたという話が残っている。また、ボックスの裏にはカラヤンの短いコメントが載っている。
曰く「彼なら、最小限の動作で大いなる結果を作り出すであろう。指揮する時は感情を露わにしなかった。つまり感情は音楽の中からほとばしった」と。