邦題はチャプリン映画らしく、人をくったような感じだが、原題は Monsieur Verdoux という素っ気ないものである。主人公の名前がそのままのタイトルで冒頭いきなりその主人公の墓が出てきて、回想するというものだ。したがって、普段の彼の映画とは肌合いが全く異なる。彼のトレードマークも封印されている。
要は裁判での台詞、「自分は数人殺しただけなのに、死刑か。戦争で大勢殺すと英雄なのに」という戦争に対する憎悪がテーマだ。だが、彼の行動は当時のアメリカの保守主義者たちが激しくバッシングする。友人の作曲家アイスラーが共産主義者であったことも更に事態が悪化、そしてこの反戦的姿勢はレッドパージの対象となったと私は理解している。
チャプリンは社会主義者でもなく、リベラリストだったのだろう。言っていることは至極まっとうなことだ。戦争に対する矛盾を突いたものだ。アメリカで本作が受け入れられたのはベトナム戦争後であったという。映画が終わると何か重たいものを感じる。深刻なテーマを突きつけられたような気分にいつもなる。この後、「ライムライト」を撮ってアメリカを去ってしまう。その後、アメリカの姿を皮肉った「ニューヨークの王様」と繋がっていく。