かつてフィリップスから出ていたCD及びLPが有名だ。バーンスタインがCBSの専属を離れて、比較的自分のやりたいものをCDになった時期のものだった。その解説にはヨーロッパで1970年頃、「フィデリオ」の公演があって、その打ち上げパーティでしたたか酩酊したバーンスタインがCBSは自分の思った通りのもの録音させてくれない愚痴を言ったというエピソードがこの録音の解説で紹介されていた。しかもCBSの幹部のいる前である。レコード会社としては何が売れるかという思惑もあり、未知のものやオペラは慎重になったようだ。特にアメリカの会社はそうした経済的な計算が先にたつ傾向にあったようだ。そして、ヨーロッパの活動に重きを置くと出てきたのが、この録音。ライヴ録音との表示であったが、どんな演奏光景なのか長い間気にはなっていた。現地の放送局が中継録画をしていたというのは早くから情報を得ていた。その映像がついにパッケージになりDVDとBDとなって登場した。
CDは拍手は収録されておらず、あまり聴衆ノイズもなかったので、ゲネプロを録音したあるいは本番とを編集したものと云われていた。この度出たものは聴衆が入っていて、歌手や指揮者が舞台に現れると拍手があり、終わると拍手も起きるところまで出てくる。終わるとバーンスタインはしばらく不動の姿勢を取るので、聴衆も拍手しない。これはヨーロッパの聴衆のいいところだと感心する。彼らも指揮者同様に余韻を楽しんでいるかのようだった。演奏会形式というか、パッケージにはセミ・パフォーマンスとの表示。歌手たちはオケの楽員のような燕尾服ではなく、比較的ラフなスタイル、といって本格的な舞台衣裳をつけていない。合唱は男声のみでこれも同じだ。この作品は対して大掛かりなセットも不要で、対話中心の室内劇のような趣なので、こういう舞台でも雰囲気は伝わる。舞台の印象としてやはり指揮者とオーケストラの公演といった感じではあった。バーンスタインの指揮ぶりはNYP時代のような躍動感は年齢のせいかないが、それでもまだその時代の残滓みたいなところはあった。髪が白くなり、老いた印象はあるが、往年の面影はまだ十分にあった。CDでは5枚くらいに分かれていたが、BDなんかは1枚に収録。一気呵成に盤の取り換えなしに聴けるというメリットがあるし、日本語字幕付きもありがたい。