>映画監督・今井正はフィルムを通して何を訴えたかったのか。戦時下の国策映画製作から、戦後の社会派映画の製作へと至る過程を、時勢に追従した行為とするだけで片付けてしまってよいのか。戦時下のフィルムにも、戦後を予見させるメッセージが込められていたのではないのか。韓国人の日本映画研究者が、今井正のこれまでの評価に異議を唱え、今井の戦時下と戦後のフィルムを思想の「連続性」という観点から分析する。
と同時に、『望楼の決死隊』『愛と誓ひ』での朝鮮人の共同監督・崔寅奎(チェ・インギュ)との関係から、今井正と朝鮮の関係についても言及する。
今井フィルムを見続けた者だからこそ書ける刺激的な今井正・作品論。
四方田犬彦氏 書き下ろし推薦文「今井正の再発見」収録。
また本書は、韓国人の日本映画研究者が日本映画に関して日本語で刊行する初の書籍である。
と同時に、『望楼の決死隊』『愛と誓ひ』での朝鮮人の共同監督・崔寅奎(チェ・インギュ)との関係から、今井正と朝鮮の関係についても言及する。
今井フィルムを見続けた者だからこそ書ける刺激的な今井正・作品論。
四方田犬彦氏 書き下ろし推薦文「今井正の再発見」収録。
また本書は、韓国人の日本映画研究者が日本映画に関して日本語で刊行する初の書籍である。
今井正監督の研究本。韓国人の日本映画研究者による著作だが、作者曰く、忘れられた巨匠とあった。今、この監督に言及することは確かに稀になった。だが、そこまで言い切れるかは、少し疑問にも思ったが、戦時中の作品と戦後の諸作を比較してみるというおまりない視点は面白いと思った。戦時中に戦争協力したクセにと非難する人は多いが、今井監督はすくなくとも自分でその行為を否定していない。それがまた戦後の製作の原点のような気もする。
佐藤忠男氏を囲む座談会でこの監督は1943年の「望楼の決死隊」が原因で北朝鮮から入国を拒否されていたことを知る。そして、この映画やこの次に朝鮮映画との共作「愛の誓い」との関り、さらに招集されて朝鮮で教練を受けていた等々で、戦後にも朝鮮との関りを持った諸作があったことが理解できた。その典型が「あれが港の灯だ」である。在日コリアの微妙な立場からくる悲劇がテーマ。北朝鮮の帰還や樺太の朝鮮人の話などが出てくる。「橋のない川」では原作にない朝鮮人のエピソードもあるし、遺作の「戦争と青春」では空襲に会う朝鮮人が登場し、ヒロインが密かに生んだ女児が向こうで成長したことを示唆するエピソードなど、晩年まで朝鮮に対する複雑な胸の内を抱えていたことが朧気ながら理解できた。
また幸いにも今井監督とはやはり座談会形式ながら直接話をうかがえたということも思い出した。
なお、この著作で「われらが教官」と「閣下」はフィルムがないことが確認できた。後者はシナリオもないことも。たいへん残念ではある。またどこからひょっこり出てくないかと思いたいが、まず難しそうだ。