これは一種の戦後まもない頃のお伽噺のような話である。山小屋で炭焼きをしていた男が息子誕生を機にもっと広い世界をみようと捕鯨船に乗り込むも船は沈没して行方不明になる。残された妻子は悲しむ。息子は父親に手紙を緑の小筐に入れて川に流す。その過程でいろいろな人間の営みに遭遇する。結果、父親のもとにその手紙は届き、父は家族のもとへと帰る、といった内容。
今観るとそれがどうしたいった内容で話の繋がりもいささか苦しい。だが、不自由な生活を強いられていた当時の多くの日本人の遠地への憧れみたいなものがあったのだろうと思う。音楽の担当は斎藤一郎で、彼のオラトリオにそって映画が展開するという形を取っている。演奏は日本交響楽団と出る。つまり今のNHK交響楽団である。タイトルが始まる前にスタジオでオケと合唱の演奏風景が出るが、一種のミュージカル仕立ての試みかもしれない。といって登場人物が唄を歌う訳ではない。出演者はほとんど脇役を担った人たちで、父親役の池田雄二という俳優はこれしか出ていないようである。どういう人なのかもわからない。演技もうまくない。母親は相馬千恵子。この人は大映の現代劇や時代劇でその他大勢で名前はよく出ていた。今回DVDになって初めて知った作品である。