正直云って、親殺しの話なので、ずっと敬遠していた作品だった。学生時代には名画座でも上映される頻度は高かった。敬遠したもう一つの理由はATG作品でもあるということだ。どうもこの会社の作品はうまがあわない作品が多く、中には理解不能なものも少なからずあったためだ。
この度、BDの廉価盤が出たので、手を出して観る気になった。この監督の第2作「太陽を盗んだ男」は名画座で観ている。かつて高田馬場にあったACTミニシアターの座談会で長谷川和彦監督はACTが好んで上映するヒューマニズム溢れる作品や民青的傾向の作品とは真逆の作風を持った監督だと評した人がいたが、この作品を観ると確かに品行方正なものとは正反対の世界ではある。主人公の青年もその両親もどこか反道徳的な人間のようである。水谷豊は「相棒」で杉下右京という頭脳明晰だが変わり者の刑事を演じてそれが定着した感じがするが、この当時はこうした反社会的というか一匹狼の役が多かったように思う。恋人役の原田美枝子はまだ素人同然の演技ながら、それがこの内容に嵌って見えるのは監督の演出力によるのかもしれない。両親役は内田良平と市原悦子。内田の父親は善良そうに見えないのは、ヤクザの役が多かったからだろうか。市原の母親はエキセントリックだ。主人公が母親を殺すに至るシーンは水谷と市原の演技の対決でここが一番見応えがあった。この映画への不満はその他大勢の群衆の扱いだろうか。あまり統制がとれてなく、映画として違和感を覚えた。
なお、この作品は日活撮影所を使用したようで、日活映画でよくみかける脇役が顔を出している。高橋明なんかがそうである。他に阿藤海なんかも機動隊員の一人として登場していた。