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Channel: 趣味の部屋
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新雪(五所平之助・大映東京1942年)

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 この映画は現存しないと聞かされてきたが、先頃、ロシアから里帰りした映画の中に短縮版ながら、この映画も入っていたという。1967年にアメリカからかなり作品が返却されて、観られるようになったが、今度はロシアにも日本映画が保管されるというので、ないとされていた作品が観られると大いに喜んだものである。
 
 この映画の主題歌もよくヒットして、今はLPでその音源を架蔵しているが、戦時中と思えない爽やかな歌なので人気があったのではなかろうか。それが映画の主題歌ということでスティル写真なんかで存在は10代の頃から知ってはいた。製作が大映だから観られると思いきや、フィルムはなく幻の作品ということを詳しい方から聞いてガッカリしたものだ。しかし、幸いにもロシアで残っていたのである。
 
 フィルムの状態はかなり悪い。肝心のタイトルバックに流れる主題歌はポンポン飛ぶ状態だ。ただ40分も削除されていても物語は理解できる。中味は男女三人の恋愛模様だが、主人公が国民学校の訓導というのがユニークだ。そこには戦時下の児童をどう戦争協力させてゆくかという国策に沿った物語展開は時代を反映している。水島道太郎扮する箕和田良太という男は気骨もある人物に描かれている。国のために児童を教育するという以外は、それぞれの個性を重んじるべきという真っ当な考えの教師である。これに女医と恩師の娘が絡むメロドラマ仕立てだ。忠君愛国を声高に叫ぶのではなく、五所監督の出身の大船的な内容に観客は癒されたのだろうと想像する。
 
 初期の大映ではヒットしたにも拘らず現存してなかったのはどうしてだろうか。大映は戦時中の作品をいくつか戦後すぐに廃棄処分したということを聞いているが、その中に入っていたのかもしれない。大映の第一回作品の「維新の曲」なんかはちゃんと残っている。時代劇だから残ったのだろうか。もっと状態がよくノーカットのものが観たいとも思うが、それは無理な注文なのかもしれない。
 
 主人公の恩師役に高山徳右衛門という俳優が出るが、この人は薄田研二という芸名を持った新劇俳優。新劇俳優は左翼思想を持っているということで芸名使用を禁止されていたのである。後に東映の名脇役で有名になった人でもある。

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