戦後すぐに製作された作品。この時代には珍しい教育映画の名作である。実はこの作品は伊丹万作が病床で1944年に書いたシナリオである。これを盟友の稲垣浩監督が映画化したもので、「無法松の一生」と同じ経緯である。
精神薄弱児をどう扱うかという問題は昔からあったろうが、これだけ真剣に考えた事例はなかったろう。戦時中はこうしたことは国の恥として隠蔽したろう。この映画でも教育者側の不適切な対応が出てくるが、大方がそうした偏見と蔑みに満ちた扱いをしてきたろう。この問題をまともに取り組む教師の姿は今日の理想なのかもしれない。これにいじめの問題も絡み、なかなかに今日的な題材だ。70年も前の作品なのに、一向に古くなっていないというのは、逆に少しも改善されていないということかもしれない。それでもこの映画では明るい方向を示唆しているだけに、明るい気持ちになる。
なお、中山寛太に扮した初山たかしと山田金三に扮した宮田二郎は、そのまま同名で伊藤大輔監督の「王将」に登場する。ラストシーンで長屋で将棋をさす二人の子供が出ているが、彼らである。余程、印象に残ったのではなかろうか。