1962年1月3日に公開された吉村公三郎監督の作品。大映は同じ日に井上梅次監督の「女と三悪人」を公開しているので、これらが2本立てで封切られたのであろう。競合では東宝が黒澤明監督の「椿三十郎」、松竹が今井正監督の「にっぽんのお婆ちゃん」、東映がマキノ雅弘監督の次郎長ものと沢島忠監督によるひばりとチエミ主演の時代劇といった図式だった。
前にも記した通り、吉村監督の本領は女性映画なのだが、戦後は社会派的な要素を加味しているのが特徴。本作も表面上はホームドラマ。しかし、小津作品のように淡々としたものではなく、少しヒネリみたいなものがある。
母親は数年前に他界(写真では平井岐代子という女優の写真が使用されていた)、山村聰扮する父親が4人の姉妹と暮らしている。その4人も立派な大人だ。映画は父親の定年退職から始まる。そこに男女交際や同期だが重役でふんぞり返っている人物が登場したりする。自分の出世しか考えの及ばないエゴイストが登場する。日本が高度成長し始めた頃のサラリーマンの世帯の実態の一旦を描いた作品といったらいいだろう。そして冒頭とラストに出てくる混雑した通勤電車の様子はそれぞれが同じような「家庭の事情」を抱えながら経済の下支えをしていることを表しているのだと思う。
あまり大上段に構えないところが特長の作品である。