少し増村保造監督の作品が観たくなって、大映時代を中心に観てきたが同社が経営破綻した後の作品はなかなか観る機会がなかった。この監督はテレビ映画も手掛けていて「ザ・ガードマン」の他、山口百恵の「赤いシリーズ」も監督していた。したがって、本作を観るとどこか2時間のテレビ・ドラマ風のようなテイストもある。しかし、これは女の情念の恐さを如実に描いた異色の作品である。謎を解くのは根津甚八扮する記者だが、強い印象を放つのは、岸田今日子の自殺した女性である。死してなお生者を操る情の恐さは凄い。多分に逆恨み的なところもあるが、同情すべき点も多々ある。戦争で人生を狂わされた人たちの悲劇でもある。 これが増村監督の遺作となった。1957年に作った「くちづけ」から始まったフィルモグラフィもここで幕が下ろされた。往年のスピーディさはやや影をひそめてしまったが、描写の闊達なところは最期まで健在だったことを喜びたい。狂女役の岸田今日子は増村監督作品では常連的な俳優だった。芦田伸介とのペアは山本薩夫監督の「戦争と人間」以来ではなかろうか。スタッフの名前を見ると、ほぼ大映東京撮影所で仲間だった人たちが集まっている。小林節雄キャメラマンは多くの増村作品手掛けて名キャメラマンだった。 |
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この子の七つのお祝いに(松竹・角川春樹事務所1982年)
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