新東宝の映画というとどこかエログロのイメージが強い。本作はあまりエロはないが、どことなく不気味なテイストがいい。後のテレビで展開されたサスペンスものの魁みたいな感じである。無線で人を操っていろいろな犯罪をやるというところが目新しい。サイバーテロみたいなところ。また、電車の窓からものを投げるという設定は黒澤明監督の「天国と地獄」の先鞭を行っている。ただ、どこかサスペンスとしては中途半端で真犯人がわかり、最後は自滅するのだが、誘拐された幼稚園児たちはどうなっているのか、また犯人の手下たちはどうなのか、さっぱりわからないまま終わってしまっている。そこらもう少し整理すると良かったと思う。
内川清一郎監督はかつて溝口健二監督が「西鶴一代女」を撮った時に助監督としてついていた人。あまりに溝口監督が無理難題を言うので、ついに切れて週刊誌に暴露するといって、途中で東京へ帰ってしまうというくだりが新藤兼人監督の「ある映画監督」の中に出てくる。溝口監督の狼狽ぶりがかなり強い印象に残るのだが、ご本人の監督作品はこれが初めて観る。なかなか凝った映像を見せてくれるし、演出もオーソドックスな感じはした。