三十郎が主演の時代劇を2本撮った後の久々の現代劇である。話はたいへん精巧に出来ていて、複数の脚本家の合議制の賜物だと思う。公開は1963年3月だから、まだ新幹線はない。在来線の特急を使った誘拐の身代金受け渡しがクライマックスとなっている。
アメリカのエド・マクベインの「87分署」の中の「キングの身代金」が原作だそうだが、翻訳ものとは思えないほど翻案はうまくいっている。犯人は上流にいい家を構える靴メーカーの役員一家に反発を覚えて誘拐を画策する。しかし、その役員も社内抗争の真っ只中で権力争いに身を削っている。そういう背景で物語は進行する。その中で正義感の塊ながら、ややもすると独断専行気味の警部が登場する。扮しているのがぎょろ目の仲代達矢だから、余計に不気味に感じる。顛末は一応ハッピーエンドではあるが、何か釈然しないものが残る。その象徴がラスト、シャッターが下りて唐突に映画が終わるところだ。そこが黒澤監督を始めとする作者の強調したいところだったかもしれない。そこが凡百のドラマと異なるところだと思う。本当はもう少しシーンがあって、別のラストシーンが用意されていたという。多分説明的すぎるということで編集時にカットされたと思う。ただ、予告編にはそのシーンが組み込まれているみたいではある。