高橋三千綱の同名小説を藤田敏八監督が山口百恵を主演にして撮った作品。それまでの文芸もののリメイク作品とは少し肌合いが異なるのが特色。藤田作品はそう多くは観てはいないが、どこか気だるい感じの作品が多いという印象。配給は東宝ではあるが、スタッフや俳優(脇役)はほぼ日活のそれである。後年、刑事もののテレビドラマで活躍している岡本麗などはまだロマン・ポルノに出ていた頃で、そうした雰囲気の役柄で出てきているし、「女教師」などに出ていた古尾谷雅人も最後の方に不良のリーダーで登場したりしている。撮影、照明、録音及び編集は全て当時の日活にいた人たちだった。
当時のどこでもいそうな若者の少し挫折感の漂うような雰囲気がこの監督作品らしい。少し上の世代の連中もあまり若い者の手本にはならないような人たちに見えたりする。三浦友和扮する青年の父親はかつて時代劇のスターでならした大友柳太朗。相変わらず台詞廻しは滑らかではないが、几帳面だがどこか抜けたところのある老人を演じていて、それがいい味を出していた。
山口百恵の歌声は一切流れない。その代わり、ブラームスの交響曲第3番の第3楽章のテーマをポップス調にアレンジした音楽が延々と流れている。ヨーロッパ映画にも使われた名曲だが、雰囲気に合わせて編曲されていて、画面に合っていた。単なるアイドル映画ではなく、かなり正統な構成になっている。それまでシネマスコープ仕様だったのが、本作ではアメリカン・ヴィスタのサイズになっている。1979年あたりから主流になっていったサイズで多分にテレビ放映を意識したものであろう。